君の事好きになっても良いですか?


「そうか?」

「うん。」
「前から思ってたの……」
「一度決めたら、」
「絶対引かない人なんだなぁって。」

晃君は何も言わなかった。
ただ……
遠くを見るような目で、
前を向いていた。

「私はさ。」

夏奈は、
小さく息を吸ってから言う。

「もう、」
「晃君のこと、」
「諦めるって決めたの。」

「だけど、どこかまだ諦めが」
「つかなかったんだけど……」

俺は、夏奈の宣言に対して
驚いたように夏奈を見る。


「でも、」
「今の話聞いて、」
「ちゃんと納得できた。」

「……そうか。」

「うん。」

夏奈は、少しだけ笑った。


「中途半端な人より、」
「よっぽど、晃君らしいよ。」

「琴音ちゃんを、」
「大事にする覚悟があるなら、」
「それだけは、」
「信じる。」

「晃君を好きになれて良かったよ。」
「ありがとう。」


「こっちこそこんな俺を」
「好きになってくれてありがとう。」
「応えてやれなくてごめんな。」


「私はもう大丈夫だよ!」


夏奈のその一言は、とても静かで、
とても重かった。

「次の方〜。」

店員の声がして、
俺と夏奈は前に出る。

注文を済ませ、
ソフトクリームを受け取る。


「溶けるね。」
「早くみんなのところに行こっ!」


「ああ。」


私と晃君はソフトクリーム
を持って歩き出し、
みんなのいる場所へ急いだ。



ベンチに腰掛け、
それぞれが手にしたソフトクリームを眺める。

白く渦を巻いたソフトクリームは
見た目だけでなく、
近づけただけでミルクの香りがふわっと広がった。

千歌
「いただきまーす!」

千歌が真っ先に一口かじる。

千歌
「……なにこれ、」
「めっちゃ濃厚!」
「めちゃくちゃ美味しい!」

夏奈
「私も食べよ。」

夏奈は抹茶味を一口舐め、
少し目を細めた。

夏奈
「ちゃんと苦味があって美味しい!」
「子ども向けじゃないけど(笑)。」

遥陽
「千歌、口にソフトクリーム」
「付いてる。」
「ほら、ここ。」


遥陽はそう言いながら、
千歌の口に付いてるソフトクリームを
人差し指で拭いペロっと食べる。


千歌
「遥陽、恥ずかしい///。」


夏奈
「千歌ちゃん、今更だよ。」


遥陽
「本当に(笑)」
「もうそろそろ慣れろよ(笑)。」


そのやり取りに、
俺は苦笑しながら琴音を見る。
琴音はちまちまとソフトクリームを
一生懸命食べている姿が、
ハムスターみたいで可愛くてたまらなく
なった。

理央
「溶ける前に食べないと、」
「手に付くよ。」

琴音
「うん。」

理央は自然な動きで、
私の手元を支えるように、
そっと手を添えた。


距離が近い……キスされそうな距離。
理央……ちょっと恥ずかしい///。


理央
「何?」

琴音
「近い……よ。」

理央
「彼氏だから良いじゃん。」

理央は当然のように答える。
そんな彼が大人の余裕みたいな
表情をして私に微笑む。

琴音
「/////////!!」


晃はその様子を横目で見ながら、
ミルクソフトを一口食べる。


「……美味い。」

夏奈
「感想それだけ(笑)?」

夏奈が聞くと、
俺は少し考えてから言った。



「牧場って感じ。」


夏奈
「めっちゃ面白い(笑)。」


「それ褒めてる?」


夏奈
「牧場って……アバウトじゃん(笑)」
「褒めてる褒めてる(笑)。」




みんなが食べ終える頃、
次の体験の案内が流れる。
私は、慌ててシューガーコンを
口に頬ばった。
すると、理央はそんな私の頭を
撫でる。


《まもなく乳搾り体験が始まります。》

千歌
「行こ行こ!」

千歌が立ち上がり、
遥陽の手を引く。

琴音
「楽しみ!」

夏奈
「……牛、でかそう。」

夏奈は少し警戒しながらも、
しっかり列に並ぶ。

柵の中には、
大人しく立つ乳牛たち。

琴音
「想像以上におっきい……。」

琴音が小さく言う。

理央
「怖かったら、」
「俺が一緒にやるよ。」


理央はそう言って、
私の肩に手を回す。


その様子を見て、
俺は一瞬だけ視線を逸らした。
理央は俺にわざと見せつける
ように行動したと分かった。

あまり、俺もムキになって行動に
取るものではないと思い、
琴音に触れたいのをグッと耐え抜いて
すぐに牛の方を見る。


「最初、俺がやる。」


晃は説明を受け、
慣れた様子で牛の横に立つ。
晃……凄い!
私、晃がこんなに器用だとは
思わなかった。

小さい頃はどっちかと言うと、
私の方が器用で折り紙とか、
よく晃に教えてたなぁ……

そんな昔の事を思い出したら
つい、顔が緩んだ。


「こうやって、」
「上から順に。」

ぎこちないながらも、
白いミルクが勢いよく出る。


遥陽
「おぉ!……。」
「晃、すげぇな!」


遥陽が目を輝かせながら
俺の顔を見て感心する。


「別に凄くない。」

夏奈
「すごい。」
「ちゃんと出るんだ。」
「……生きてるって感じする。」

夏奈は真剣な表情で見ていた。


「次、琴音やってみれば?」


琴音
「うん、ちょっとやってみる。」

私は、晃に呼ばれ
少し緊張しながら前に出た。

すると理央は、
すぐ私の隣に立つ。

理央
「大丈夫。」
「ゆっくりでいい。」

琴音が教わった通りにやると、
ミルクが出る。

琴音
「出た……!」

驚きと嬉しさが混じった声。
凄く温かい。
生命を感じる……。
私は心の中で牛さんに感謝をした。

理央
「上手いじゃん。」

理央はそう言って、自然と頭を撫でる。

俺はその様子を、黙って見ていた。
どこかのタイミングで、
琴音と2人になりたい……。
そんな願望が膨らんでいく。


体験が終わり、手を洗いながら、
次の予定を千歌ちゃんは確認する。

千歌
「この後、」
「水族館だよね?」

夏奈
「うん。」
「私鉄乗って、」
「30分くらい。」


千歌
「ちょうどいいね。」
「牧場から水族館!」

遥陽
「温度差すごそう(笑)。」

理央
「じゃ、」
「そろそろ行くか。」

理央が言うと、
みんなが頷きベンチから立ち上がる。

出口へ向かう道すがら、
それぞれが自然に隣に並ぶ。

理央 琴音 晃

千歌 遥陽 夏奈

牧場ランドを背に、次の目的地である
水族館へ向かう旅は、まだ続いていく。