その言い方が完全に“彼氏”で、
なんだか、彼女の特権みたいで
私は少し照れる。
私が、彼女の実感に浸っていると
反対側から晃が近づいてきた。
晃
「琴音。」
琴音
「なに?」
晃は、
私の空いているもう片方の手首に、
そっと触れる。
えっ!?
これもまた、晃の体温が手首から
私の全身を包み込んだ。
理央とはまた、少し違った
優しい暖かさを感じる。
引き寄せるほどじゃないけれどて
でも、距離が近くなって
少しドキマギする。
晃
「歩き疲れてないか?」
琴音
「まだ大丈夫だよ。」
「だって10分しか歩いてなかったじゃん。」
「晃は大丈夫?」
晃
「なら、いい。」
「俺も全然大丈夫。」
そう言いながらも、
肩が触れるくらいの距離で並ぶ。
理央の手は離れない。
晃の距離も、近い。
夏奈
「……ちょっと理央、晃君、」
「両サイド固めすぎじゃない?」
夏奈ちゃんが、
呆れたように言って苦笑いをした。
夏奈
「牧場行く前に、」
「琴音ちゃんが疲れるでしょ。」
そう言う夏奈ちゃんに対して
理央が、すぐに答える。
って言うか、夏奈ちゃんの言う通り
2人に挟まれて正直少し、色んな意味で
疲れた。
右横には彼氏で、左横には幼なじみ……。
本当……複雑……。
そんな事、お構いなしに理央も晃も
話しを続ける。
理央
「俺が支えるから大丈夫。」
晃も、負けじと言う。
晃
「俺もいる。」
夏奈
「はいはい(笑)。」
夏奈ちゃんは、
肩をすくめて笑った。
夏奈
「琴音ちゃん、」
「モテますねぇー(笑)。」
冗談っぽい声で私は言う。
そして作り笑顔の奥で、
私の胸は静かに揺れていた。
……本当は、分かってる。
晃君の視線が、
全然自分の方には向いていないこと。
最初から分かってた事だもん……。
嫌でも現実に突き落とされる。
私に対しての態度と琴音ちゃんに
対する態度の違いや、話し方や
仕草……。
もっと早くに、晃君に出逢えていたのなら
私にも入る隙はあったのかな……。
諦めるって、決めたはずなのに……。
それでも、こうして隣で見ると、
少しだけ、心が痛む。
琴音ちゃんが悪いわけでもない……
晃君が悪いわけでもない……。
私が勝手に好きになっちゃった
だけの事……。
琴音ちゃんの事好きなの知ってて、
後から入ってきたのは私なんだから、
誰も責められない。
でも……
私は……
そっと息を吐く。
晃君は琴音ちゃんにしか選ばない。
それなら私は、この恋を……
ちゃんと終わらせなきゃならない。
そう、覚悟したのに……
なんでこんなにも好きな気持ちが
溢れ出てきちゃうのだろう……。
友達として、
笑っていられるように頑張らなきゃ。
そんな事を考えてると琴音ちゃんが
心配そうに私に声をかけてくれる。
琴音
「夏奈ちゃん、大丈夫?」
「体調が悪かったりする?」
夏奈
「ごめんごめん。」
「ちょっと、考え事してただけだよ。」
「心配してくれてありがとう。」
琴音
「それなら良いんだけど……。」
「もし、話したくなったら」
「いつでも言ってね。」
夏奈
「琴音ちゃん、ありがとう!」
「今日の夜にでも話し聞いてね。」
琴音
「もちろん!」
私達は私鉄に乗り、
揺られることしばらく。
車窓から、
緑が一気に増えていく。
大自然で、隣の県だけで
こんなにも風景が変わるのだと
私は、目を輝かせた。
隣にいる理央も晃も目を大きく開け
景色を見ている。
その姿は少年のように目がキラキラと
景色が目に映し出されていた。
千歌
「見て、」
「牧場っぽくなってきた!」
千歌ちゃんが、
窓に顔を近づけて言う仕草が
可愛い。
遥陽君もそんな千歌ちゃんを
見て頬を染めている。
遥陽
「牛……?」
「あれ、牛じゃない?」
遥陽君が言うと、
全員が一斉に窓を見る。
琴音
「ほんとだ!」
晃
「テンション上がるな。」
夏奈
「写真撮ろ、写真!」
電車を降りると、
牧場ランド行きの案内板が見えた。
その先に広がる大きな空と、
緑の丘。
天気も晴天で、4月の末というのに
夏みたいな気温がする。
琴音
「……着いた。」
私がそう言うと、
理央は手を握り直した。
理央
「やっと来たね。」
「すごい絶景だね。」
晃も、少し後ろから言う。
晃
「ここから、」
「いっぱい思い出作ろうぜ。」
みんなで顔を見合わせて、
笑う。
この瞬間をここにいる私達は
全員同じ思いで立っていた。
この旅行の始まりを、心から楽しみたい。
そうきっとみんなが思っていると
私は感じた。
電車から降りて少し歩くと
牧場ランドの入口が、すぐそこに見えていた。


