私達の間に不思議な緊張と、
でも確かに甘い空気が流れる。
そして車内に入り、
指定された席へ。
理央と私が隣、その前の席に晃。
晃の隣は空席となっていた。
千歌ちゃんと夏奈ちゃん、遥陽君は
少し後ろの席。
座席に座ると、
窓の外がゆっくり動き出す。
琴音
「いよいよ出発だね……。」
私が言うと、理央は小さく頷いた。
理央
「そうだね。」
発車の揺れに、
私は少しだけ体を傾ける。
その瞬間、
理央の肩に触れた。
琴音
「あっ……ごめん。」
理央
「いいよ。」
「琴音は彼女なんだから。」
理央は、
何も言わずに、
少しだけ肩を寄せてくる。
自然で、優しい距離。
前の席から、晃の声が聞こえる。
晃
「琴音、酔ったら言えよ。」
「お前、乗り物酔いしやすいだろ。」
琴音
「まだ大丈夫だよ。」
「晃、ありがとう。」
晃
「無理すんなよ。」
晃の優しい声が、
今日はやけに鮮明に私の周りに
響いてくる。
そんな中後ろから、
千歌ちゃんが私に話しかけてきた。
千歌
「ねぇねぇ、」
「牧場ランド、どこから回る?」
琴音
「まずは動物エリアからが」
「良いなぁー!」
千歌
「絶対写真撮ろうね!」
夏奈
「水族館も忘れないでね!」
夏奈ちゃんが横から会話に入って
笑顔で言ってくる。
車内は、笑い声で満ちていく。
そして、特急はるかぜは静かにスピードを上げ、
私たちを非日常へと運んでいった。
特急はるかぜの車窓から見える景色が、
少しずつ変わっていく。
ビルの間を抜け、
住宅街を過ぎ、
やがて緑が増えていく。
琴音
「もうすぐ目的の県だね。」
私が言うと、
理央は窓の外を見ながら頷いた。
理央
「こうやって電車で旅行するの、」
「初めてだな。」
琴音
「うん。」
「みんな一緒だしね。」
私の言葉に、
理央は少しだけ照れたように笑う。
その様子を、
前の席から晃がちらっと振り返る。
晃
「……楽しそうだな。」
琴音
「晃もでしょ?」
そう言うと、
晃は小さく肩をすくめた。
晃
「まぁな。」
でもその視線は一瞬、
私と理央の距離を測る
みたいに止まっていた。
「まもなく、〇〇〇です。」
「車内お忘れ物ないよう下車ください。」
車内アナウンスが流れると、
一気に空気がざわめく。
千歌
「着いたー!」
千歌ちゃんが、
小さくガッツポーズ。
それぞれ荷物を持って立ち上がり
ドア付近に行く。
遥陽君も、
千歌ちゃんの手を自然に握りながら笑って
ドア付近に向かった。
遥陽
「千歌、ここからが本番だな。」
千歌
「うん!」
「早く降りたい!」
電車が止まり、
全員でホームに降り立つ。
外に出た瞬間、
空気が少しだけ違う。
空気が美味しい……。
爽やかな空気の匂いがする。
琴音
「……空、広い。」
思わずそう呟くと、
理央が隣で頷いた。
理央
「都会より、匂いが違うね。」
晃
「大自然だな。」
晃は、
大きく伸びをしながら言った。
遥陽
「さて、」
「次は私鉄に乗り換えだな。」
私鉄の駅までは、少し歩く。
道中、自然と理央は私の隣に来て、
そっと手を差し出した。
理央
「手繋ぐよ……。」
小さな声で言いながら私の
顔を覗き込む。
そんな理央に私はドキドキと胸が
弾けてしまう。
不意打ちに……こんなのズルいよ……。
琴音
「うん、もちろん!」
私は、迷いもなくその手を取った。
彼の手がとても暖かくて、
穏やかな気持ちになる。
指と指が絡まる……
また、私の心臓が高鳴る。
それだけなのに、
胸がいっぱいになっていく。
一瞬で心を持って行かれる。
千歌
「おーい!」
すぐに、
千歌ちゃんの声が飛んでくる。
千歌
「朝から甘いんですけど(笑)?」
遥陽
「旅先だし、」
「いいじゃね?」
俺は、千歌の手を恋人繋ぎしながら言う。
すると彼女は、
照れた顔をして俺を見て言う。
千歌
「そうだね!」
「私達も同じ事、しちゃってるし(笑)。」
千歌は、楽しそうに笑った。
その笑顔反則……。
ぎゅっと抱きしめたくなるのを
俺は必死に耐え抜いた。
私鉄のホームで電車を待つ間も、
理央は私の手を離さなかった。
理央
「さっきの特急で酔ってない?」
琴音
「大丈夫だよ。」
「結構揺れも少なかったから、」
「割と平気!」
理央
「次乗る電車も無理そうなら、」
「ちゃんとすぐ言ってね。」


