綾部駅の改札前は、
朝の光がガラス越しに差し込んでいて、
どこか旅の始まりらしい、
少し浮き立った空気が漂っていた。
電光掲示板に表示された
《特急 はるかぜ》の文字を見て、
胸がきゅっと高鳴る。
……本当に行くんだ。
初めての旅行で、胸が凄く弾みだす。
私と晃、千歌ちゃんの三人で
改札へ向かうと――
すぐに、見慣れた姿が目に入った。
理央と、夏奈ちゃん、遥陽君。
理央は改札横の柱にもたれかかりながら、
スマホを見ていたけど、私に気づいた瞬間、
顔を上げて手を振る。
視線が、まっすぐに合う。
一瞬だけ、
時間が止まったみたいに感じた。
理央
「琴音おはよう。」
理央が、
小さく名前を呼ぶ。
その声が、
いつもより少しだけ柔らかく聞こえて、
胸の奥がじんわり温かくなる。
琴音
「おはよう、理央!」
そう言うと、
理央はほっとしたように笑った。
理央
「ちゃんと起きれたね。」
琴音
「当たり前でしょ。」
そのやり取りを、横から見ていた晃が、
軽く息を吐いた。
晃
「はいはい、再会終了。」
そう言いながらも、私と理央の間に
さりげなく入って来る。
理央の視線が、
一瞬だけ晃に向かったのが分かった。
理央
「……迎えに行ったんだ。」
理央の言葉に、
晃は悪びれもせず頷いた。
晃
「あぁ……。」
「朝早いしな。」
「それに、昔から琴音は旅行の当日」
「寝坊する事が多いからな。」
その言い方が、
やけに堂々としていて、
私は思わず苦笑する。
しかも、サラッと私が旅行当日寝坊しがち
なのバラされるし……。
琴音
「晃、さりげなく理央にバラさないでよ。」
「それよりも……」
「二人とも、喧嘩しないでよ?」
「旅行なんだから。」
そう言うと、
理央が私の方を見て、小さく頷いた。
理央
「……分かってる。」
「今日は、楽しく過ごす。」
晃も、肩をすくめて笑う。
晃
「理央に同意。」
「俺も今日は、平和主義。」
夏奈ちゃんが、
その空気を和らげるように声を上げた。
夏奈
「はいはい、全員集合ね!」
「誰も遅れてないし、完璧!」
遥陽君も、
キャリーケースを引きながら
笑って言う。
遥陽
「さすが夏奈。」
「ちゃんとまとめ役してる。」
夏奈
「え、私?」
突然振られて、私は少し驚いた。
だって……また琴音ちゃんを巡って
喧嘩が勃発されると、
せっかくの旅行出発が重たくなるじゃん。
そんなの私は嫌だし……それに……
晃君は琴音ちゃんを理央から奪おうと
最近行動が大胆になっているの、
さすがに諦めると言ってもあまり、
見たくないから、割って入ってしまった。
そんな中、千歌ちゃんが
くすっと笑って言った。
千歌
「夏奈ちゃん無意識に、」
「そういう事出来るの凄い!」
夏奈
「全然凄くないよ。」
琴音
「いやいや、夏奈ちゃんは」
「本当に凄いと思う!」
「尊敬しちゃうもん。」
夏奈
「琴音ちゃんまで(笑)。」
こうして私達は、
特急はるかぜが止まるホームへ向かう。
特急はるかぜは、
すでに停車していて、
白い車体が朝日に反射していた。
琴音
「わぁ……!!」
思わず私は声が出る。
凄い!凄い!
初めて見た!
もう既に私は、ワクワクとドキドキに
包まれていた。
理央
「テンション上がるな。」
理央が、私の隣に自然に並ぶ。
晃
「琴音。」
「席、指定だよな?」
琴音
「うん、夏奈ちゃんが取ってくれた。」
晃
「夏奈、ナイス。」
夏奈
「どういたしまして!」
晃は、
私の反対側に立って、
三人で横並びになる形になる。
晃が私に小声で言う。
晃
「髪、可愛いから」
「電車でも崩れないといいな。」
琴音
「あっ晃!?」
「もう……そんな事言わないで。」
小さく睨むと、
晃は楽しそうに笑った。
俺と琴音のその様子を、
理央は見逃さなかった。
理央
「……晃。」
「琴音、寝不足なんだから、」
「変にからかうなよ。」
その言葉に、今度は私が驚く。
琴音
「え?」
「なんで知ってるの?」
理央は、
少し照れたように視線を逸らす。
理央
「少し、目の周りにクマができてる(笑)」
「本当、極薄だけど俺にはわかるよ。」
晃は、
一瞬だけ表情を変えたけど、
すぐに笑った。
晃
「はいはい。」
「大事にされてますね。」


