私に気づいた瞬間、
晃の視線がふっと止まる。
一瞬だけ、
言葉を忘れたみたいに。
「……あ。」
小さく声を漏らしてから、
晃は少し照れたように笑った。
「今日の髪型、可愛いな。」
不意に言われて、
心臓が跳ねる。
「……え?」
驚いていると、
晃は何でもないことみたいに一歩近づいてきて、
私の前髪にそっと触れた。
指先で、軽く整える程度に触れられる。
でも……距離が近い。
「おはよう琴音。」
「寝不足っぽいのに、」
「全て似合ってるな。」
「俺がプレゼントしたブレスレットも。」
その声が低くて、やけに近く聞こえて
胸がざわつく。
「おっ……おはよう……って…」
「ちょ、晃……。」
「なっ……なに言って……。」
慌てて一歩下がると、
晃は”あ、ごめん”と言いながらも、
視線を逸らさない。
「つい。」
「可愛かったから。」
「なっ!!」
「言っとくけど、晃がくれたブレスレット」
「だけじゃなくて、千歌ちゃんがくれた」
「カチューシャも着けてるんだからね!」
”可愛いかったから”なんて……
さらっと言われて、余計に困る。
……最近、やっぱり近いよ。
そう思うのに、
強く拒めない自分がいて、
余計に落ち着かなくなる。
晃は気を取り直すように、
私のバッグを見て言った。
「それ、持つ。」
「あっ、いいよ!」
「遠慮すんなって。」
「幼なじみだろ?。」
即座に答えたけど、
晃はもう手を伸ばしていた。
”幼なじみだろ”その言葉に、
私は少しだけ安心して、
少しだけ、引っかかる。
最近の晃は、
”幼なじみ”というワードを
やけに強調して言ってる気がする。
晃の考えてる事が読めない……。
そんな事をモワモワと心に
残りながらも晃と、並んで歩きながら
千歌ちゃんの家へ向かう。
朝の空気は、
まだ少しひんやりしていて、
気持ちがいい。
「旅行、楽しみだね。」
私が言うと、晃は私の方を見て
頷く。
「ああ。」
「琴音、牧場ランド行きたがってたもんな。」
ちゃんと、覚えてるん……
私が何気なしに言った事も。
「……うん。」
「動物好きだし。」
「知ってる。」
短い返事。
でも、その一言に胸が少し温かくなる。
千歌ちゃんの家に着き、
インターホンを鳴らす。
しばらくして、元気な声で
千歌ちゃんはドアを開けた。
「琴音ちゃん!おはよ!」
ドアを開けた千歌ちゃんは、
私と晃を見て、一瞬だけ目を見開いた。
「あれ?」
「アキ君も一緒?」
「うん…」
「晃が家まで迎えに来たの。」
そう言うと、
千歌ちゃんは一瞬、
意味深な笑顔を浮かべた。
「ふーん。」
「そっか、アキ君も頑張るね(笑)」
「なんだよ、千歌。」
「頑張ったら悪いのかよ。」
「別に悪くないよ♪」
三人で駅へ向かう道。
朝の光の中で、これから始まる旅行を思うと、
胸は確かに高鳴っている。
それと同時に――
晃の隣を歩きながら、
私はまだ知らない何かが、
この旅行の中で動き出す予感がしていた。
琴音 side 終わり


