「……でもな、理央。」
声のトーンが、わずかに変わる。
「勘違いすんなよ。」
「えっ……何を?」
「俺が今日言った事、」
「琴音を奪うって話。」
一拍、置いて晃は言う。
「――あれは、撤回しない。」
その一言で、空気が一変した。
理央の表情が、一気に引つるのが
分かった。
「……晃……ちょっと……」
俺が言う言葉を塞いで、
晃は自分の感情を続けて言葉に出す。
「仲直りしたのは事実だ。」
「それは、それでいい。」
「でも……」
「それで俺が引く理由にはならない。」
理央は、
無意識にスマホを強く握る。
ちょっと待って……そんな……
そんな事駄目に決まってるだろ……。
「琴音が、」
「今はお前を選んだ。」
「それも、分かってる。」
「それでも――」
晃の声が、はっきりと低くなる。
「俺の気持ちは、」
「何一つ、変わってない。」
「晃……お前……」
「だから……明日からは、」
「俺も好きに行動させてもらう。」
晃は俺に宣戦布告をした。
遠慮も、探りもない。
マジかよ……
なんで……なんでこんな事になるんだよ。
「隠れない。」
「遠慮しない。」
「“幼なじみだから”って立場も、」
「言い訳にしない。」
俺の胸が、重く重圧にのしかかる。
「琴音の前で、」
「俺は俺の気持ちを出す。」
「それが嫌なら、」
「止めてみろ。」
静かで、
堂々とした宣戦布告。
「……お前、」
「それが、」
「どれだけ琴音を揺らすか……」
「分かってる。」
即答かよ……。
なんでこう次から次へと試練が起こるんだよ。
一難去ってまた一難って展開早すぎ……。
ゴールデンウィーク、旅行だってあんのに。
この先どうなるんだ……
予測不能で俺は固まる。
「だからこそだ。」
「中途半端な覚悟の奴に、」
「あいつを任せるつもりはない。」
俺は一瞬、言葉を失う。
そして、低く言い返す。
「俺は、」
「もう逃げない。」
「琴音を、」
「不安にさせるようなことは、」
「二度としない。」
「だから、琴音の事諦め……」
俺が最後まで言おうとするのを
晃は許してくれなかった。
「なら、いい。」
不思議なほど、あっさりした声。
「理央、正面から来い。」
「俺も……」
「正面から行く。」
電話の向こうで、
晃が微かに笑った気配がした。
「奪うってのは、」
「喧嘩売ってるわけじゃない。」
「本気だって、」
「言ってるだけだ。」
「……分かってる。」
「分かってるけど……。」
「だから、」
「俺は理央に負ける気もない。」
「俺も……俺も負ける気しないから。」
一瞬の沈黙。
二人とも、
同じことを理解していた。
これはもう、
ただの衝突じゃない。
琴音の未来を巡る、
覚悟と覚悟のぶつかり合いだった。
「じゃあな、理央。」
「明日から、」
「覚悟しとけよ。」
「……ああ。」
「来いよ。」
「言われなくても。」
「じゃあな。」
通話が、切れる。
静まり返った部屋がやけに冷えていた。
俺は、
スマホを膝の上に置き、
天井を見上げた。
仲直りは、できた。
でも――
それは、終わりじゃない。
むしろ、
本当の始まりなんだ。
俺は、琴音を選んだ。
だから――
何があっても……
ずっと一緒にいたい……。
夜の静けさの中で、
俺はそう、強く誓った。
第24話 長引く喧嘩
END


