君の事好きになっても良いですか?


──琴音の家


琴音のマンションに着いた時、
俺の息は上がっていた。

インターホンを押す指が、
勝手に少し止まる……。

……怖かった。

拒絶されたら……?
もう遅いと言われたら?

それでも……

迷いを振り切るようにボタンを押した。


数秒後、
ドアがゆっくり開く。

そこに立っていた琴音は……
俺の知っている琴音じゃなくなっていた。

目は赤く腫れていて、
涙の跡がそのまま残っている。

頬は青白く、
唇にも色がない。

髪は寝癖のまま乱れ、
服もきちんと着替えた様子がない。

食べてない……。
寝てない……。
そう言った晃の言葉が、一気に現実になる。

「……っ!」

声が、喉で詰まった。

琴音は、
驚いたように理央を見上げる。

「理央……?」
「……どう、して……」

その問いに答える前に。
俺は、一歩琴音の傍に踏み出し
迷わず琴音を抱きしめた。


強く……強く……
逃げ場がないくらい、しっかりと。


「……り……お。」

琴音の声が震えてる。
胸が張り裂けそうだ……。


「ごめん。」

耳元で、低くはっきりと
俺は謝る。

「ほんとに、ごめん。」

理央の胸に、
琴音の身体が崩れ落ちる。

張りつめていた糸が、
切れたみたいに。

琴音
「……っ、……っ……」

嗚咽が、俺の服を濡らす。
そんな彼女をを何も言わず、
ただ、背中を撫で続けた。
逃げ場がないくらい、しっかりと。

ここにいる……離れない。
それだけを、身体で伝える。

琴音と俺は落ち着いてから、
リビングに移動した。

ソファーに並んで座るが、
距離はほとんどない。

琴音の手を取ったまま、
離さなかった。


「……俺さ。」

少し間を置いてから、言葉を探す。

「俺……琴音のこと、」
「分かってるつもりだった。」

視線を落とし、続ける。

「でも実際は、」
「自分が傷つくのが怖くて、」
「ちゃんと向き合ってなかった。」

琴音の指が、
きゅっと力を入れる。


「強いふりして、」
「余裕あるふりして、」
「……一番、逃げてたのは俺だ。」


「……理央……。」

俺は顔を上げ、まっすぐ琴音を見る。


「俺はさぁ、」
「晃に勝ちたいとか、」
「誰かに取られたくないとか、」
「そういうのより――」

息を少し吐いて呼吸を整えて
から再び続きを話す。

「琴音が、」
「泣かないでいられる場所でいたい。」


震えながらも、はっきりと言う。

「そのために、」
「ちゃんと話す。」
「ちゃんと聞く。」
「もう……」
「一人で抱えさせない。」

私の目に、再び涙が溜まる。
でもそれは、
さっきまでとは違う涙だった。
これは嬉しくて出てくる涙……。


「……怖かった……。」
「私、怖かったよ。」
「嫌われたのかって、」
「私の事、大事じゃ」
「なくなったのかって……」


「違う。」

理央は即答だった。
”違う”言ってくれるだけで
こんなにも乱れていた心が、
落ち着いていく。

「そんなわけない。」

琴音の額に、
そっと手を重ねる。


「好きだ……大好きだ。」
「大事だ。」
「離す気なんて更々ない。」

その言葉に、
琴音の肩から力が抜ける。