髪は、整えた形跡もなく、
無造作に毛先が外向きに向いている。
あぁ……。
一瞬で、全部分かってしまった。
「……晃。」
名前を呼ばれた声も、
掠れている。
胸の奥に、衝撃が走った。
怒りでも、悲しみでもない。
ただ、
守れなかったという感覚。
やるせない感情がうずいてしまう。
「琴音……来た。」
それだけ言うのが、
精一杯だった。
琴音は、
少しだけ戸惑った顔をしてから、
ドアを開ける幅を広げた。
「……どうぞ。」
その一言に、拒絶はなかった。
でも頼る余裕も、
残っていないように見えた。
靴を脱いで、部屋に入る。
静かな部屋……
琴音のお母さんは仕事か……。
生活はあるのに……
気配だけが、薄い。
俺は、琴音の背中を見ながら
強く思った。
――このままじゃ、ダメだ。
この現実から、
目を逸らしちゃいけない。
晃 side 終わり
──琴音の部屋
部屋に入ると、
静けさが、より重く感じられた。
カーテンは半分だけ閉まっていて、
外の光が、淡く床に落ちている。
俺は……
琴音のベッドの前で立ったまま、
一度だけ視線を泳がせてから、
ゆっくりと琴音を見た。
「今日の朝さぁ……」
晃の声はいつもより低くて、
少し硬い。
「遥陽から聞いたんだけど……。」
胸が、きゅっと縮む。
多分理央から遥陽君に話したんだろう。
「理央と……喧嘩したって。」
私は、無意識に指先を握りしめていた。
晃はその間も真剣に私を見つめて
言う。
「詳しく、話して欲しいんだけど。」
逃げ道を塞ぐような言い方じゃない。
でも、真剣な目だった。
私は、小さく頷く。
晃に説明しなきゃ……り。
「えっと……土曜日のことから、」
「なんで喧嘩になったか説明するね。」
そこからは、
止まらなかった。
青空ワールドのイベントの帰り道。
晃からの電話。
病院に行くと決めた時の理央の表情。
夜の電話での言い合い。
冷たくなっていった声。
”今日はそういう気分じゃない”
と突き放されて言われた時の、
胸が抜け落ちる感覚。
言葉にするたび、
胸の奥に溜まっていたものが、
少しずつ、溢れていく。
「……私、間違ってたのかな……。」
そう言った瞬間、
視界が波打ちながら滲んだ。
「晃のお母さんが」
「倒れたって聞いて……」
「放っておけなかっただけなのに……」
私の声が、どんどん震える。
涙が、一粒……更に一粒と
頬を伝って流れ落ちる。
涙を止めようとしても、
無理だった。
次から次へと、
溢れてくる……止まらない。


