*晃*
白鷺高校の校門を出た瞬間、
胸の奥に溜め込んでいた空気を、
ようやく吐き出した。
――早退。
こんな形で学校を出るのは、
初めての事で、胸がザワつく。
周りを歩く生徒たちの声が、
やけに遠く聞こえる。
昼の光は眩しいのに、
頭の中はずっと曇ったままだった。
琴音……。
名前を思い浮かべるだけで、
これも胸がざわつく。
朝……。
喧嘩していると知った瞬間の、
あの嫌な予感。
俺の嫌な予感は、だいたい当たる。
――体調が悪くて休んでる。
その一言だけで、
”大丈夫なわけがない”
と、分かってしまった。
あいつは、
限界になるまで、人に頼らない。
それを、
誰よりも知ってるのは、俺だ。
駅までの道を、
ほとんど覚えていない。
改札を抜け、電車に乗り、
電車に揺られる間も、
俺の頭の中には琴音の顔しかなかった。
泣いてないか……。
無理してないか……。
一人で、全部抱え込んでないか。
……俺のせいで。
俺が土曜日弱って琴音に頼ったから。
その考えが、何度も胸を刺す。
もし、あの日、電話をしなければ。
もし、弱いところを見せなければ。
でも……それでも。
あの時、琴音に頼りたかったのも、
本当の気持ちだった。
東中園駅に到着し、
琴音の家に向かって歩き始め10分。
マンションが見えてきた時足が、
一瞬だけ止まった。
本当に来てよかったのか。
来るべきじゃなかったのか。
答えは出ない。
それでも、
引き返す選択肢だけは、
最初からなかった。
エントランスを抜け、
エレベーターに乗る。
数字が一つずつ上がるたび、
心臓の音が、
はっきりしていく。
――今の俺に、何ができる。
そう考えているうちに、
目的の5階に着いた。
廊下は静かで、生活音が
余計に現実味を帯びさせる。
琴音の部屋の前に立つ。
インターホンの前で、
指が止まった。
深く、一度だけ息を吸う。
そして、人差し指で押した。
――ピンポーン。
電子音が、
やけに大きく響いた気がした。
すぐには、反応がない。
その数秒が、やたらと長く感じる。
ドアの向こうで、かすかな物音がした。
鍵が回る音が廊下に響く。


