君の事好きになっても良いですか?



*琴音*


どれくらい眠っていたのか、
本当に分からなかった。


深く眠った感覚はないのに、
身体だけが鎖に縛られ
鉛みたいに重い。


「……ん……」

喉がひどく乾いていて、
声を出した自分の声が、
他人のものみたいに聞こえた。

ゆっくり、
ゆっくりとまぶたを開く。

天井が、
ぼんやりと滲んで見える。

カーテンの隙間から差し込む光は、
朝よりも少しだけ柔らかく、
でも確実に、
時間が進んでいることを知らせていた。

――もう、昼過ぎだ。

そう気づいた瞬間、
胸の奥が、ずしんと重くなる。

起き上がろうとして、
一度、諦めた。

身体が、言うことをきかない。
なにこれ……全然身体が動かない。

涙は、
もう出ていないはずなのに、
目の奥が、
じんと痛んだ。

枕元に置いてあったスマホが、
視界の端に入る。

画面は暗いままなのに、
それを見るだけで、
心臓が、きゅっと縮んだ。


――理央から、
何か来てるかもしれない。
そんな期待をしてしまう自分がいる。


そう思った瞬間、
怖くなって、
一度、目を逸らした。

でも、無視できなかった。

指先に力を入れて、スマホを手に取る。

画面をつけると、
通知の数字が、
はっきりと目に入った。

1件の未読が表示されている。

その二文字が、胸に突き刺さる。
理央からなのかな……
期待と不安が混合して、
私の頭を支配しようとする感覚。

一瞬、息が詰まった。


名前を確認するのが、
怖かった。

それでも、
指は勝手に動いて、
画面をスクロールする。

表示されていた名前は、

”晃……”

胸の奥で、別の意味で、
鼓動が跳ねた。

メッセージを開く。

”今から、お前の家に行く”

短い一文。

なのに、その文字が、
やけに今日は重たく感じた。

えっ!!
家に来ちゃうの!?

…………来るんだ。

来てほしい気持ちと……
でも、来てほしくない気持ち。


今の自分を、
誰にも見せたくない。

泣き腫らした目も、
痩せた顔も、ぐちゃぐちゃの心も。

理央と喧嘩したままの自分。
答えを出せないままの自分。

全部、
見られたくなかった。

「……どうしよう」

呟いた声は、
思った以上に掠れていた。


喉の奥が、ひりひりする。

断ろうかと一瞬、考える。

でも、
断る理由を考えること自体が、
もう、しんどかった。

誰かに、
そばにいてほしい。

ただそれだけの気持ちが、
心の底に、
小さく残っていた。

私は、
スマホを握りしめたまま、
ベッドの上で、
しばらく動けずにいた。

時計の音だけが、部屋に響く。

やがて、
小さく息を吸って、
ゆっくりと身体を起こした。

晃が来ちゃうなら、
仕方ない。

そう自分に言い聞かせながら、
重たい足を、床につけた。

現実から逃れるようにしていた時間が
また、現実へと動き出そうとしていた。


琴音 side 終わり