俺は、千歌を一瞬だけ見てから……
千歌
「千歌……降りるぞ。」
そう言って俺は、ホームへ降りた。
千歌も、後に続く。
千歌ちゃんが慌てて、
私達に手を振ったと同時に
ドアが閉まり、二人の姿が遠ざかる。
残された車内で、沈黙が続き
白鷺駅から2駅の大和駅で、
理央・夏奈・遥陽も降りる。
ホームに立った瞬間、
張りつめていた空気が、
現実として重くのしかかる。
夏奈
「ねぇ……理央。」
理央は、短く言った。
理央
「俺、間違ってないから。」
その背中は、強がっているようで、
どこか孤独だった。
──白鷺高校
白鷺高校の校舎は、
朝のざわめきで満ちていた。
教室に入ると、
いつものように席に着くはずなのに、
今日は何かが違う。
――琴音がいない。
その事実が、
教室の空気を少しだけ歪ませていた。
俺は
自分の席に座ったまま、
何度も無意識に、
琴音の席へ視線を向けてしまう。
空いた椅子。
伏せられていない机。
千歌
「やっぱ……来てないよね。」
千歌が、
そっと声をかけた。
俺はそれに答えるように、
小さくうなずく。
晃
「あぁ……。」
「あいつが体調不良で」
「休むの久しぶりだから、」
「すげぇ心配……。」
千歌
「うん。」
「大丈夫かな……琴音ちゃん。」
千歌は、
俺の顔をじっと見た。
千歌
「理央君と……喧嘩してるなんて」
「知らなかった。」
その言葉に、俺の喉が、
小さく鳴る。
晃
「俺も……知らなかった。」
正直な答えだった。
きっと理央と喧嘩した事によって、
体調崩してしまったんだろ。
心配ばかりが、募るばかりだ。
晃
「さっき、遥陽が言って」
「初めて知らされた。」
千歌は、
少し言いづらそうに続ける。
そして千歌もまた、悲しそうな
表情で俯いた。
千歌
「理央君が……折れないって。」
「仲直りしない気なのかな?……。」
俺はぎゅっと拳を握った。
晃
「……あいつ。」
理央に対する怒りと
琴音が居ない違和感の焦りが交差する。
晃
「琴音今、相当しんどいはずだよな。」
千歌は、静かにうなずく。
千歌
「だから……」
「アキ君、無茶しな行動だけは」
「しないでね。」
その言葉に、俺はは答えなかった。
と言うか答えられなかった。
ホームルーム開始のチャイムが、
重く響く。
晃の胸の中だけ、
時間が止まったままだった。


