君の事好きになっても良いですか?



「逃げたいときは、」
「ち止まっていいのよ。」

その温もりに、涙が滲む。

「学校には、私から連絡しておくから。」


「お母さん、」
「……ありがとう。」


お母さんは、
立ち上がりながら言った。


「ご飯は、食べられそうに」
「なったらでいいからね。」


そしてお母さんは、
仕事に行く準備をしながら、
もう一度だけ振り返った。


「琴音、一人じゃないからね。」


その言葉が、胸に残った。

玄関のドアが閉まる音。

家の中が一気に静かになる。

私は、ゆっくりとスマホを手に取った。

千歌ちゃん。

今、話せるのは、
この子だけな気がした。


個人talkメッセージを開いて、
指を動かす。

千歌ちゃん
今日、学校休むね
ちょっと体調よくなくて…
また連絡する。
みんなにもよろしく言っておいて。

送信ボタンを押した瞬間、
少しだけ、肩の力が抜けた。


千歌ちゃんからすぐに、返事が来る。


分かった無理しないでね。
何かあったらいつでも言って。
みんなに言っとくね。


短い言葉なのに、
胸の奥が、じんわり温かくなる。

スマホを置き、再び布団に潜り込む。

カーテン越しの光が、
ゆっくりと揺れている。

――考えないようにしよう。

今は、それでいい。


目を閉じると、
疲れが、一気に押し寄せてきた。

眠れるか分からないけど、
身体を休めよう。

私は、
浅い呼吸のまま、
そのまま意識を手放した。

この喧嘩が、
どこへ向かうのか。

まだ、
分からないまま――。



琴音 side 終わり