*琴音*
私は……
この二日間、ほとんど眠れていなかった。
目を閉じても、理央の声が、
あの夜の言葉が、
頭の中で何度も繰り返される。
気づけば、枕が濡れている。
涙を流している自覚すらないまま、
ただ、静かに泣いていた。
――私、何か間違えたのかな。
晃のお母さんが倒れたって聞いて、
晃が一人で病院に向かっているって聞いて。
不安で、放っておけなくて。
それが、そんなにいけないことだったの?
理央の言葉を思い出すたび、
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
私は、理央が大好きなんだよ。
それだけは、
何があっても揺るがない気持ちなんだよ。
なのに、
どうしてこんな風になってしまったんだろう。
カーテン越しの朝の光が、
やけに眩しかった。
外……出たくないなぁ……。
スマホを見ると、
月曜日と表示されている。
学校行かなきゃ……
身体を起こそうとしても、
鉛みたいに重くて、
ベッドから出られない。
喉が渇いているのに、
何も飲みたくない。
お腹も、空いていない。
ただ、心だけが疲れている。
学校……行きたくない。
正直な気持ちが、そのまま浮かび上がる。
学校に行く途中の電車、必ず
理央と顔を合わせる事になる。
もし、目が合ったら。
もし、何も話さずに
みんなに気を使わせてしまったら……。
それを想像しただけで、胸が苦しくなる。
ドアの向こうから、足音が聞こえた。
「……琴音?」
お母さんの声。
私は、
返事をする力もなく、
布団の中で小さく身動きする。
ドアが、
静かに開いた。
「起きてる?」
お母さんの心配そうな声。
私は、
ゆっくりと布団の隙間から顔を向けた。
「……うん、起きてるよ。」
声が……あまり出ない。
自分でも分かるくらい、かすれている。
お母さんは、私の顔を見て、
何も言わなかった。
でも、その目が、
すべてを分かっているみたいな目を
していた。
「琴音……あんた。」
「……あんまり寝てないでしょ。」
小さく、
そう言われただけで、
胸がいっぱいになる。
「無理しなくていいのよ。」
ベッドの端に腰を下ろし、
私の髪を、そっと撫でる。
お母さんの優しさで、
じわりと胸が熱くなって、
涙がこみ上げてくる。
「今日は……」
「休んでもいいんじゃない?」
その言葉に、ほっとする自分がいた。
同時に、情けなくもなる。
「……うん、そうする。」
それ以上、言葉が出なかった。
お母さんは、
少しだけ間を置いてから、
優しく続けた。
「誰かのことを大切に思うって、」
「悪いことじゃないのよ。」
私は、視線を布団に落とす。
「……でも、」
「大切にしてるつもりでも、」
「傷つけちゃうこともあるでしょ?」
「それでもね……」
お母さんは、
私の手を軽く握った。


