君の事好きになっても良いですか?



音も……
意味も……

残らないほどの、小さなキス。

恋人みたいなものじゃない。
そう言い訳をする……。


そのまま、
琴音の頭が揺れないように、
自分の肩に、そっと寄せる。

起こさないように。
不安にさせないように。

俺の肩に預けられた重みが、
やけに現実的だった。

……幸せだ、なんて言葉は、
使えない。

これは、
許されているものじゃない。

でも、
今の俺には、
それでも必要だった。

俺は更に、琴音の頭を優しく撫でた。

運転中の父さんは何も言わない。

バックミラー越しに、
一度だけ、こちらを見た気がした。

視線が合ったかどうかも、
分からない。

でも、
何も言わなかった。

それが、
許しじゃないことも、
咎めじゃないことも、
分かっている。

ただ、
“見ている”という事実だけが、
重く、胸に残る。

父さんは、俺の気持ちを分かってるから。


この行為が、越えてはいけない線に
限りなく近いことも。

それでも、父さんは止めなかった。

それはきっと、息子としての弱さを、
今は責めなかっただけだと思う。

車は、静かに走り続ける。

俺は、
琴音の頭を支えながら、
窓の外を見た。

この温もりは、
俺のものじゃない……
理央のものなんだ……。

分かっている。
でも、今夜だけは――
忘れさせてほしかった。

この想いが、
どれだけ深くなってしまったのかを。

車が減速し、琴音の家の近くに差しかかる。

俺は、そっと息を吸い、
心の中で、
何度も繰り返した。

――起きるな。
――このままで、居たい。


これは、恋で……
未練で……弱さで……
どうしようもない感情だ。

だからこそ、俺はこの先、
もっと苦しくなる。

分かっているのに、手放せない。

春の夜は、静かで、
何も答えてくれなかった。



車が、
静かに止まった。

エンジン音が弱まり、
やがて完全に消える。

晃は、それでも動かなかった。

肩に、確かな重みがある。

琴音の頭が、
自分の肩に預けられたまま、
規則正しい呼吸を続けている。

……起こせない。
このまま琴音の存在を感じていたい。

ここまで、
無事に連れてこられた。
それだけでいいはずなのに。

晃は、
小さく息を吸い、
視線を伏せたまま、
動かない。

前の席から、父の低い声が、
静かに落ちてきた。


「……晃。」

父さんは俺の名前だけ言う。

責めるでも、急かすでもない。

晃は、わずかに肩を強張らせた。

そして、痺れを切らしたとうさんは、
一度だけバックミラーを見てから、
シートベルトを外し、
後部座席のドアを開けた。