*晃*
――震えてる。
自分でも、はっきり分かる。
声も、手も、全部。
情けないと思う。
男なのに。
もう高校三年なのに……
涙が勝手に流れて、目が腫れるまで
泣いてしまった。
母さんが倒れた。
その言葉だけが、頭の中で何度も反響して、
他の音を全部押し流していた。
”大丈夫だ”
”命に別状はない”
まだ何も分かっていないのに、
勝手に最悪の想像ばかりしてしまう。
俺は、一人だった。
その事実が、
こんなにも怖いなんて、初めて知った。
一番辛い気持ちになってる
そんな時――琴音が来た。
琴音に心配させたくないのに、
気が動転して、俺が電話してしまった
せいだ。
名前を呼ばれて、
顔を上げた瞬間、
胸の奥に張りつめていた糸が、
ぷつりと切れた気がした。
そして、
何も言わずに、琴音は
俺の手を握ってくれた。
その一瞬、時間が止まったように
感じた。
冷えきった俺の手に、
琴音の体温が、
じわりと移ってくる。
琴音の優しい温度がじんわりと
手から全身にかけて染み込んでいく。
ああ……温かい。
この手を一生離したくない。
それだけで、
呼吸が、少し楽になる。
”大丈夫”
”一人じゃないよ……”
そう言われた言葉は
琴音のその手から、
確かにそう伝えてきた。
でも――
分かってしまう。
これは、
俺が望んでいる意味じゃない。
期待するな。
勘違いするな。
何度も自分に言い聞かせてきた言葉が、
また頭の中で響く。
この手は、
恋人として差し出されたものじゃない。
幼なじみとして。
ずっと一緒に育ってきた相手として。
不安な人を放っておけない、
琴音の“優しさ”だ。
それでも――
今の俺には、
その優しさが、痛いほど染みる。
この優しさをつけ込みたい。
拒む理由なんて、
見つからなかった。
むしろ、
離してほしくないと、ずっと
このまま離れないで欲しいと
思ってしまった。
情けない……
最低だ……俺……。
理央がいると、
分かっているのに……
理央が良い気はしないって、
分かっているのに……
どうしても、傍にずっと
いて欲しいと願ってしまうんだ。
誰の物にもならないで欲しかったって……。
琴音が、
もう誰のものかも、
ちゃんと分かっているのに。
それでも、
こうして支えられてしまうと、
胸の奥で、
消えかけていたはずの想いが、
また静かに息をし始める。
――やっぱり、好きだ。
どうしようないくらい好きすぎるんだ。
この気持ちは、
母さんのこととは関係ない。
不安だから生まれたわけでもない。
ずっと、
心の底にあったものだ。
だからこそ、余計に苦しい。
今、
口に出してはいけない。
今、
触れてはいけない。
俺はただ、
その温もりを受け取るだけで、
精一杯だった。
琴音が手を離すまで、
俺は何も言わず、
何もできず、
ただ、その手を感じていた。
この手の意味を、
勘違いしないように。
でも――
忘れられないように。
その矛盾を抱えたまま、
俺は静かに、
呼吸を整えていた。
晃 side 終わり


