病院 ― 晃との再会
私は、電車とバスを使い、目的地の
病院へ到着し走って晃の元へ駆け寄った。
病院のロビーは、
時間が止まったみたいに静かだった。
消毒液の匂いと、
足音を吸い込む床の感触が、
現実感をじわじわと押し付けてくる。
ロビーの奥、壁際の椅子に――
晃は一人で座っていた。
背中は丸まり、
両膝の上で組まれた手は、
はっきりと分かるほど震えている。
「……晃」
声をかけた瞬間、
彼の肩がびくりと跳ねた。
ゆっくり顔を上げた俺は、
琴音を見た途端、
無理に保っていた何かが崩れたような表情をした。
自分でもそれは鏡を見なくてもわかる程に。
「……琴音……」
声が、震えている。
抑えようとしているのに、
どうしても揺れてしまう声。
俺は立ち上がろうとしたが、
足元が覚束なく、
その場に留まった。
「来てくれて……ありがとう。」
晃の目は赤く腫れていて、
無理に平静を装おうとしているのが分かる。
私は何も言わず、
晃の前にしゃがみ込んだ。
そして、
膝の上で強く握りしめられていたその手に、
そっと、自分の手を重ねた。
冷たくて、
小刻みに震えていた。
こんな晃は今まで見たことないから、
私は胸が痛くなる。
「……大丈夫」
「一人じゃないよ。」
強く握り返すことはしない。
ただ、逃げない程度に、
そっと包むだけ。
それだけで、
晃の手の震えが、ほんの少しだけ和らいだ。
「……母さんがさ……」
晃は、私の手を握り返して
視線は落としたまま話し始める。
「仕事先で倒れたって……」
「急に電話きて……頭、真っ白になって」
言葉の合間に、
小さく息を吸う音が混じる。
「今、検査中で……」
「過労だって……言われた。」
命に別状はない。
そう聞かされているはずなのに、
晃の表情は、まだ強張ったままだ。
「……ずっと、無理してたんだと思う」
「俺、気づいてたはずなのに。」
「母さんの職場、今人手不足で」
「なかなか休めないって言ってたのに。」
握られた手に、
少しだけ力がこもる。
「ごめん……」
「こんな事で、呼び出して……。」
その言葉に、
胸がきゅっと締めつけられた。
「そんな言い方しないでよ。」
私は、手を離さずに言った。
「晃が一人で抱えることじゃないよ。」
「不安になるの、当たり前でしょ?」
晃は、
一瞬だけ目を伏せて、
小さく唇を噛んだ。
「……琴音。」
名前を呼ぶ声が、
さっきよりも、少しだけ落ち着いている。
「来てくれて……本当に、ありがとう。」
その言葉には、
頼り切ってしまう自分への迷いと、
それでも救われているという安堵が、
混ざっていた。
私はただ、
晃の手が完全に落ち着くまで、
何も言わずに、隣で座り続けた。
それが、
幼なじみとしての距離だと、
自分の中で、はっきり分かっていたから。


