千歌
「ちょっとちょっと〜!」
向かいの席から、
千歌ちゃんがニヤニヤしながら身を乗り出す。
千歌
「もう注文前から甘々なんだけど!」
「ここファミレスだからね?個室じゃないよ?」
遥陽
「まぁまぁ千歌。」
「でも正月早々ラブラブなのは悪くないだろ?」
そう言いながら、遥陽君は千歌ちゃんの
肩に腕を回す。
千歌
「遥陽は黙ってて!」
「自分も同じことしてるくせに!」
遥陽
「え、バレた?(笑)」
千歌
「バレバレだよ。」
夏奈
「遥陽も理央と、」
「どっこいどっこいだね(笑)。」
夏奈ちゃんはくすっと笑いながら
メニューを閉じる。
夏奈
「でもさ……」
「こうしてみんなでいるの、」
「やっぱ落ち着くね。」
その言葉に、空気が一瞬柔らぐ。
晃はメニューを置き、
少し間を置いてから口を開いた。
晃
「……俺も、同じこと思ってた。」
短い言葉。
でも、視線は私に向いていた。
理央はそれに気づき、
さらに私の手を強く握る。
理央
「琴音、決まった?」
琴音
「う、うん……これにする。」
理央
「俺も同じの。」
理央は即座に合わせてくる。
晃
「……じゃあ、俺はそれのセット。」
一瞬、火花が散ったような沈黙。
理央と晃が私を挟んで目で会話して
るようにも見えた。
千歌
「はいはーい!」
「注文決まったなら店員さん呼ぶよー!」
千歌ちゃんがわざと明るく声を上げ、
場を切り替える。
本当に千歌ちゃんが居てくれて、
私は良かったと安堵する。
注文を終え、料理を待つ間。
理央は私の耳元に顔を寄せ、
周りに聞こえない声で囁いた。
理央
「……さっきから晃、」
「攻めてきてるね。」
琴音
「そ、そんなこと……」
理央
「俺の彼女に、あれは反則。」
冗談めかしてるけど、指先に力がこもる。
指先から伝わる理央の愛情に
私の心はドキドキさせられてばかり。
理央
「だから今日は、俺も遠慮しない。」
その宣言に、更に私の胸が
ドキンと鳴った。
一方俺は、
テーブルの下で拳を握りしめていた。
……奪えないって分かってる。
でも、譲るつもりもない。
隣にいるのは俺じゃない。
それでも、目を離す気はない。
視線を上げると、
理央に寄り添う琴音の横顔。
……好きだ……大好きなんだ。
ただ、それだけの事。
料理が運ばれてきて、
再び会話が賑やかになる。
千歌
「わー!美味しそう!」
「写真撮ろ!」
遥陽
「はいはい、映えね。」
夏奈
「ほんと仲良しだね、二人。」
笑い声の中で、
それぞれが違う想いを胸に抱えながら――
新しい一年は、静かに、
でも確実に動き出していた。
料理がテーブルに並び、
湯気が立ち上る。
さっきまで張りつめていた空気が、
少しだけ緩んだ。
千歌
「うわ、やっぱこの店安定だね。」
「正月でも味ブレないの強い。」
遥陽
「分かる。」
「俺、正月明けのファミレス」
「結構好きなんだよな。」
夏奈
「人多いのに、なんか落ち着くよね。」
そう言いながら、夏奈ちゃんは
フォークを持つ手を止め、
ちらっと私を見る。
……ううん、正確には
私と晃と理央の距離を見ていたように
思う。
理央は、当たり前のように私の
鉄板皿の方へ手を伸ばす。
理央
「琴音、これ熱いだろ。」
「俺切るから、待って。」
私は理央と同じハンバーグステーキを頼んで
ハンバーグステーキを切ろうとしていた。
琴音
「え?いいよ、自分で――」
理央
「いいから。」
有無を言わせない声。
それなのに、どこか優しい。
俺はそのやり取りを黙って見ていた。
ジリジリと胸がカァっと熱くなる。
フォークを持つ手に、無意識に力が入る。


