君の事好きになっても良いですか?


*理央*

琴音の誕生日当日の朝。
俺は部屋で静かに身支度を整えていた。
鏡の前でジャケットを整えながら
胸の奥に小さな緊張が溜まっていく。


昨夜、琴音のお母さんに電話をした。

電話越しに聞こえた琴音のお母さんの声は、
穏やかで落ち着いていた。

短いやり取りだったが
それでも、誕生日当日に娘を迎えに行くこと、
その一言をきちんと伝えた。

”明日、琴音をよろしくお願いしますね”

その言葉が、今も胸の奥に残っている。
せっかくの琴音の誕生日の時間を
俺に時間を頂けた事に感謝の気持ちで
いっぱいになった。


廊下に出て階段を降りると、
リビングから姉の声がした。


「ねえ理央。」

姉はスマホを操作しながら、
何気ない調子で言う。

「今日、私も夜まで帰らないから。」

「俺も今日は仕事で遅い。」

新聞を畳みながら、父が続ける。

キッチンから母が顔を出した。

「私も用事があって出かけるから」
「3人とも、今日は夜遅くなるわね。」

理央は一瞬、言葉を失った。

「……そうなんだ」

母はすぐに察したように、
穏やかに言う。

「彼女誕生日当日でしょう?」
「時間気にしなくていいのだけど」
「あまり、遅くなりすぎないようにね。」
「女の子を夜遅くまで連れ出すのは駄目よ。」


「母さんわかってるよ。」



姉貴は口元を緩めて喋り出した。

「あっ、そう言えば理央。」
「昨日、琴音ちゃんのお母さんに」
「挨拶の電話してたんでしょ?」

「えっ!?」
「……なんで姉貴が知ってるんだよ。」


「あんたの部屋の前、」
「通ったら聞こえたから。」
「あんな大きな声で話したら分かるっての。」

父は短く一言だけ。

「彼女を大切にしろよ。」

理央は玄関で靴を履きながら、小さく息を吐いた。

「分かってる。」

扉を開けると、冷たい冬の空気が頬を刺す。

家を出ると、冬の朝の空気が肺に刺さる。
冷たいのに、頭は不思議と冴えていた。

琴音のマンションへ向かう道。
何度も電車に乗って歩いたはずなのに、
今日は一歩一歩がやけに重く、
同時に確かだった。


 ――今日、ちゃんと伝える。
 言葉にしなくても、態度で。
琴音に触れたい……愛おしいくてたまらない。


カバンの中で、
プレゼントの箱が微かに音を立てる。
理央はそれを確かめるように握りしめ、
足を止めずに歩き続けた。




理央 side 終わり