それでも――俺はこんな時でさえ、
琴音の顔が、頭から離れない。
笑った顔。
困った時の癖。
泣きそうなのに、我慢する時の横顔。
意地ぱっりなとこも全部。
……俺は、
本当にどうしようもない。
誰かを傷つけてまで、
一人を想い続けている。
それが正しいとも、
間違っているとも言えない。
でも、この気持ちは消えなかった。
夏奈の想いを知った今でも、
琴音への想いは、少しも揺らがない。
その事実が、
俺自身を一番苦しめた。
「変われよ……」
誰に向けた言葉か分からず、
小さく呟く。
変わりたいのか。
それとも、変われない自分を、
受け入れたいのか。
答えは出ない……。
電車の音が、遠くから聞こえてくる。
もう一本、見送ろう。
そう思って、
俺はまだベンチに座ったまま、
夕焼けから夜空になる瞬間を見上げた。
星は少なくて、
代わりに、
オレンジ色いのが浮かんでいる。
昔、琴音と並んで見た月と、
何も変わらない。
変わったのは、俺だけだ。
誰かを好きになるって、
こういうことなのか。
報われなくても、
選ばれなくても、
手放せない。
それは、
美しいなんて言葉じゃ、
片づけられないほど、
苦しい……胸がすごく苦しい。
でも、
この想いを捨てたら、
俺は俺じゃなくなる気がした。
俺は重たい腰を浮かせて
立ち上がる。
少し遅くなった電車に、
乗らなきゃいけない。
帰ったら、
何事もなかった顔で、
明日を迎える。
それが、
今の俺にできる、唯一の選択だ。
”……夏奈、気持ちに応えられて”
”やれなくてごめん”
声に出さず、
心の中でだけ言った。
そして、
最後に思い浮かぶ名前は、
やっぱり――
琴音、だった。
晃 side 終わり


