*晃*
ベンチに一人残されて、
しばらく立ち上がれなかった。
夏奈の背中は、
もう人混みに溶けて見えない。
それなのに、
彼女の声だけが、耳の奥に残っている。
”私が勝手に好きでいるだけだから”
「……そんな言い方……」
「ずるいだろ。」
俺は、
何も言い返せなかった。
胸の奥が、
じわじわと重くなる。
気づかなかった。
いや、気づこうとしなかったんだと思う。
夏奈が、
俺の話をよく聞いてくれたこと。
俺の言葉に、
少しだけ嬉しそうに笑っていたこと。
全部、友達だからで片づけていた。
最低だな……俺。
そう思っても、
今さら何かできるわけでもない。
風が吹いて、
ロータリーの街灯が揺れる。
昼間の喧騒が嘘みたいに、
夕方は静かだった。
俺は、
両手を膝の上で強く握った。
いつの間にか指先が、冷えている。
……夏奈の手、
さっき、少し震えてた。
告白する時、
前を向いたまま、
俺の顔を見なかった。
勇気出して言ってくれた事と、あれは
俺の反応を見るのが、怖かったからだ。
それに、
俺は気づけなかった。
夏奈の告白の返事に対して
本当は、もっと言うべき言葉があった
のじゃないかと今頃気付く。
ありがとう、とか。
勇気を出してくれて、とか。
でも、それを言ったら、
期待を持たせる気がして。
だから、言わなかった。
優しさなんかじゃない。
ただの臆病だ。


