駅のロータリーに着くと、
駅前特有のざわめきが広がっていた。
車のエンジン音。
送迎のクラクション。
改札へ急ぐ人たちの足音。
「……座ろっか」
夏奈が指さしたのは、
ロータリー脇のベンチだった。
俺は特に理由もなく頷く。
並んで腰を下ろすと、
思ったより距離が近い。
でも、
それを不自然だとは思わなかった。
友達だし。
そう、無意識に片づけていた。
「ね、晃君。」
夏奈が、前を見たまま言う。
「私ね、実は……」
「晃君の事、もっと知りたいなって思って。」
少し意外だったけど、
悪い気はしなかった。
「晃君誕生日とか」
「家族のこととか」
「小さい頃、どんな子だったの?」
質問は穏やかで、
どれも他愛ないものだった。
「誕生日は……3月2日で」
「家族は、両親と俺だけ。」
「今もなんだけど昔も人見知りでさ」
「結構今よりもっと愛想なかったよ。」
夏奈に自分の事を話しながら、
自然と昔の記憶が浮かぶ。
雪の日に、
一人で遊んでいたこと。
その隣に、
いつもいた幼なじみ。
「琴音とさ」
「小学生の頃、よくこの辺で――」
名前を出した瞬間、
私の肩が、ほんの少し揺れた。
でも、
俺はそんな夏奈の変化に
気づかなかった。
ただ、
懐かしさに任せて話を続ける。
「一緒に帰って」
「途中でアイス買って――」
「そしたらあいつ……」
分かってた……
分かってたよ私……。
晃君が話す過去に、
必ず琴音ちゃんがいること。
それはもう、
呼吸みたいなものなんだ。
それが晃君には自然な事なんだよ。
それでも、私は聞き続けた。
晃君の事を知りたいから。
晃君の声が、優しくなる……。
そして、私の胸が痛くなる。
だけどちゃんと受け止める、
それも覚悟なんだから。


