*晃*
理央に任せて、俺はその場を離れた。
背中に夜風が当たる。
秋の空気は冷たいはずなのに、
胸の奥だけが、妙に熱を持っていた。
……これでよかった。
そう思おうとするのに、
心が全然、納得してくれない。
また心がザワザワと揺さぶる。
足を進めるたびに、
さっきの光景が頭に浮かぶ。
琴音の前に立った理央。
追いかけてきた、あの必死な顔。
――ああ、奪われるんだな。
そんな言い方は、卑怯だって分かってる。
琴音は最初から、理央の彼女だ。
俺のものだったことなんて、一度もない。
ただの幼なじみ……。
それでも。
本音を言えば――
渡したくなかった。
ずっと隣にいた。
泣くのも、笑うのも、迷うのも、
全部、俺の知ってる琴音だった。
こんなにも愛おしいのに……?
”俺にしとけよ”
その一言が、
喉の奥まで何度もせり上がってきた。
でも言わなかった。
言ったら、琴音を困らせる。
言ったら、琴音は優しいから、
きっと自分を責める。
それだけは、したくなかった。
……好きだから。
好きだからこそ、言えなかった。
理央に任せたのは潔さなんかじゃない。
逃げでも、諦めでもない。
ただ、
琴音がこれ以上傷つかない選択を
選んだだけだ。
これが正しいんだ……。
そう何度も何度も頭で説得させる。
街灯の下で立ち止まる。
夜空を見上げて、息を吐く。
……俺は、ずるいな。
想いを抱えたまま、
何も言わずに、隣にいることを選ぶ。
それでも、
この気持ちは消えない。
消すつもりも、ない。
好きだ。
今も、これからも。
それを胸にしまって、
俺はゆっくり、家への道を歩き出した。
晃 side 終わり


