君の事好きになっても良いですか?


恥ずかしさと、
でも――

誰かが、ちゃんと見てくれていた安心感。


晃・夏奈ちゃん・遥陽君……
ありがとう。


「……そっか。」
「みんな心配してくれて」
「ありがとう。」


私が小さくそう言うと、
晃は視線を柔らかくした。
晃が少し肩の力が抜けたのか笑顔で
優しい言葉を言ってくれる。


「家まで送る。」
「今日は、それがいい。」


断る理由が、
見つからなかった。

「晃……あの……」
「……ありがとう。」

晃は頷き、
二人で改札を抜けた。



夕方の電車は、ほどよく人が乗っていて、
立つほどでもなく、座れるほどでもない。

結局私と晃は並んで立ち、つり革を握った。

電車が動き出して、しばらく無言。
そんな無言が今日はやけに心地よい。

窓に映る私の顔が、
思ったより疲れて見えたから。
この無言がちょうど良かった。
だけどそれは長くは持たなく……

「……今日さ。」


先に口を開いたのは、晃だった。


「理央、焦ってたと思う。」


私は、何も言わずに晃の話しを聞く。


「言い方、最悪だったけど。」
「琴音が離れるのが、怖かったんだと思う。」


……怖かった。

その言葉が、胸に落ちる。
晃はいつだって真っ直ぐにぶつかって
来る。
だから、いつも勇気づけられる……。


「でもさぁ……」

晃の声は、少し低くなる。

「それでも、」
「言っていいことと悪いことはある。」

琴音は、
小さく息を吐いた。

「うん……。」

「琴音が感じた不安、」
「間違ってない。」

その一言で、
胸の奥に溜まっていたものが、
少しだけ溶けた。

「……私、」
「嫉妬してたんだと思う。」

ぽつりと零す。

「自分勝手だって、分かってるのに。」

晃は、すぐに否定しなかった。


「好きなら、嫉妬くらいする。」

俺も同じだから……なんては言えず
それだけ言った。


東中園駅のアナウンスが流れる。
いつもの車内の風景がゆっくりと
流れ私達は電車を降りた。



駅前の道は、昼より静かで
街灯が足元を照らしている。

並んで歩きながら、
私は今日の出来事を、少しずつ話した。

噂を聞いた時のこと。
メッセージを送るまでの迷い。
カフェで、言葉を飲み込んだ瞬間。

晃は、遮らずに聞いてくれていた。


「……私ね。」
「怒ってたっていうより、」
「寂しかったのかなって。」


その言葉に、
晃の歩く速度が、ほんの少しだけ遅くなる。


「信用されてないのかなって。」


「……信用してないんじゃない。」
「信用しすぎて、言えなかったんだと思う。」


その言い方は、理央を庇いすぎず
琴音の気持ちも否定しない。

ちょうどいい距離。
この距離で良い……これ以上踏み込んだら
抱き締めたくなる……。

”俺にしろよ”って言ってまた、
琴音を苦しめる事になる。
そんな事はしたくない。
そんな事を頭で葛藤していると
琴音のマンションが見えてきた。
その時……

後ろから、
足音が近づいてきた。

「琴音!」

息を切らした声が私の後ろから
聞こえた。

後ろを振り返ると――


「……理央!?」

理央が、そこにいた。

秋で風が冷たいのに額に汗を滲ませ、
息を整えていた。
きっと必死に走って来たのだろう。

理央は琴音と俺の方を見ている。

俺は一瞬だけ視線を理央に向けて、
それから一歩、横にずれた。


「……追いついたな。」

その声には、
責めも、棘もなかった。

ただ、バトンを渡すみたいな響き。



私の胸が、どくん、と鳴る。
追いかけて来てくれた……。
その事実だけで、もう嬉しさが
勝っていた。

理央は、
まっすぐ琴音を見て言った。


「……遅くなって、ごめん。」
「ちゃんと、話したい。」

俺は、
小さく息を吐いてから、琴音に向き直る。


「俺は、ここまでだ。」

そして、俺は頑張って
ほんの少しだけ微笑った。

「……あとは、任せた。」


夜風が吹いて、
3人の間を静かに通り抜けた。


この夜はまだ、終わっていなかった。