夏奈
「晃君が送ってくれてる間、」
「理央は、ここで後悔してるだけ?」
遥陽も、続ける。
遥陽
「晃はな。」
「奪うために追いかけたんじゃない。」
「守るために行った。」
理央
「……分かってる。」
分かってるから、余計に苦しいんだよ。
遥陽
「次は、理央が追っかける番だろ?」
遥陽の目が、
真っ直ぐに理央を捉える。
遥陽
「晃に、任せっぱなしにするな。」
理央は、
拳を強く握った。
逃げるな、向き合え。
理央
「……ありがとう。」
そう言って、椅子から立ち上がる。
理央
「俺、行ってくる!」
夏奈は、小さく頷いた。
夏奈
「ちゃんと話してきてね。」
「言い訳じゃなくて、」
「気持ち、全部。」
遥陽は、
口角を少しだけ上げる。
「遅れんなよ。」
「晃、優しいから待ってくれてるけど、」
「主役は、お前だ。」
理央は、
深く息を吸って、
カフェのドアへ向かった。
背中に、
2人の視線を感じながら。
……もう、間違えない。
失いたくないものが、
はっきり分かったから。
カラン、とドアが鳴る。
夕暮れの空の下、
理央は走り出した。
───────────
カフェを出た私は、
足早に駅へ向かっていた。
胸の奥がざわざわして、
立ち止まったら泣いてしまいそうで、
とにかく前に進くしかなかった。
改札が見えてきた、
その時。
「琴音!」
聞き慣れた声が、背中にぶつかった。
「えっ……晃?」
振り返ると、
息を切らした晃が立っていた。
走ってきたの!?
「え……?」
「なんで……?」
驚きが先に出て、
さっきまでの悲しさが、一瞬だけ後ろに引っ込む。
「すぐ追いかけた。」
「そのまま帰すの、無理だった。」
俺はそう言って、
琴音の表情をじっと確認する。
泣いてないか。
立っていられるか。
……あ、見られてる……。
晃の透き通る目はいつも、
私を見透かす。
そう思って、
琴音は視線を逸らした。
「でも……」
「どうして晃が?」
疑問が追いついてきて、
言葉が自然と出た。
晃は、そのまま真っ直ぐ私の目を見てから
少しだけ間を置いて口を開く。
「……同じカフェにいた。」
「え?」
「そうなの?でも……なんで?」
「夏奈と遥陽と一緒に。」
「少し離れた席で、」
「全部、聞こえてた。」
驚きで、私の目が大きくなる。
「最初から……?」
「うん。」
恥ずかしそうでもなく、
でも軽くもなく。
ただ事実として言った。
「心配で、な。」
「放っておけなかった。」
「夏奈も遥陽も同じだ。」
胸が、きゅっと縮んだ。
あんなやり取りを、
全部聞かれていたなんて。


