……ああ。
俺は、座ったままなのに。
晃は、もう追いかけてる……
晃の姿はもうなかった。
琴音が傷ついた瞬間に、
迷わず動けるのは晃なんだ。
悔しさと、情けなさと、
名前をつけられない感情が、
一気に押し寄せる。
俺は恋人なのに……
一番そばにいるはずなのに……
何してんだよ俺……
どうして、
肝心なところで立ち尽くしてる。
晃は、琴音の幼なじみで、
長い時間を共有してきた存在で、
そして――
今も俺よりずっと、
琴音の“心の変化”に敏感な男だ。
分かってる。
晃が何かするつもりじゃないことも。
琴音を困らせる人間じゃないことも……。
それでも。
晃が追いかけて行った事実が、
胸に刺さる。
俺が、できなかったことを、
晃が、当たり前みたいにやった。
その差が、
はっきり見えてしまった。
……もし、立場が逆だったら。
琴音が晃の彼女で、俺が幼なじみだったら。
今、追いかけているのは、俺だったんじゃないか。
そんな考えが頭をよぎって、
すぐに打ち消す。
ダメだ。
琴音は俺の彼女だ。
それは、変わらない。
……でも。
恋人って、なんだ。
不安にさせないこと?
守ること?
一番に動くこと?
全部、できてなかった。
拳を強く握りしめる。
晃に負けたくない、
なんて感情よりも先に。
――琴音を傷つけたのは、俺だ。
逃げちゃいけない。
晃が送ってくれている間、
俺はここで、自分の弱さと向き合っている。
それが、今の俺の役目だ。
でも、決めた。
次は、絶対に。
言葉を選ぶ前に、
琴音の気持ちを、ちゃんと受け止める。
晃に任せきりにならない。
“好きだから言えなかった”なんて、
もう、言い訳にしない。
理央は、
空になったカップを見つめながら、
静かに息を吐いた。
――失いたくない。
その気持ちだけが、
今、はっきりと胸に残っていた。


