少し落ち着いてから、
私はふと気づく。
……あれ?
やっぱりさっきから私の事
呼び捨てで呼んでるよね……。
たまたまじゃないと確信に変わった。
夏奈
「ねぇ、晃君」
晃
「ん?」
夏奈
「さっきから、」
「私のこと“夏奈”って呼んでるけど……」
「今日急にどうして?」
今まで、
名前で呼ばれたことなんて、
なかったから。
晃君少し考えて、
正直な顔で答えた。
晃
「最初は、正直言うと……」
「苦手だった。」
胸が、
ちくっとした。
でも、
晃君続けて話してくれた。
晃
「でもさ、夏奈の真面目な性格や」
「明るい笑顔を見たり。」
「みんなのこと気にかけてるのを」
「見たり……。」
「自分のためじゃなくて、」
「人のために動けるのって、」
「すげぇなって思ってさ。」
「前向きで、友達思いで。」
「……ちゃんと、」
「信頼できる友達だって思えた。」
「だから、名前で呼びたくなった。」
その言葉が、
胸の奥に、静かに落ちた。
……あっ……。
この気持ち。
同情じゃない。
寂しさの穴埋めでもない。
尊敬されて、
認められて、
その上で向けられた優しさ。
……私、
晃君のこと、
好きになっちゃった。
そう気づいた瞬間、
少しだけ、
前を向ける気がした。
だけど、晃君は琴音ちゃんの事が
大好きだからな……。
それが懸念だよね……。
文化祭の喧騒が、
遠くで続いている。
その中で、
私は静かに、
新しい恋の始まりを感じていた。
……好き。
そう自覚した瞬間から、
世界の見え方が少しだけ変わった。
さっきまで、
自然に話せていたはずなのに。
今は――
晃の視線ひとつ、
声のトーンひとつに、
心臓が無駄に反応する。
なに、この感じ……
2年生の階段に並んで座ったまま、
私は自分の膝を見つめていた。
晃君も、
さっきより少しだけ静かだった。
沈黙が、
気まずいというより、
妙にくすぐったい。
顔見れない……。
晃
「……無理して笑わなくていいからな。」
不意にそう言われて、
はっと顔を上げる。
夏奈
「え?」
晃
「さっきのこと。」
「すぐ切り替えろなんて、無理だろ。」
……ああ、だめだ。
また、胸がぎゅっとなる。
晃君……
本当に優しい。
不器用な事もあるけれど、
真っ直ぐな人。
私は小さく頷いた。
夏奈
「うん……ありがとう。」
その返事すら、
どこかぎこちない。


