──10月下旬・日曜日
──神谷崎高の文化祭
神谷崎高校へ向かうまで
東中園駅のホーム。
秋の空気は少し冷たくて、
制服の上に羽織ったカーディガンがちょうどいい。
「文化祭、楽しみだね!」
千歌ちゃんがそう言って笑うと、
私は頷いた。
「うん!」
「理央達の学校の文化祭、初めてだし。」
理央の名前を琴音が出した瞬間、
俺は胸の奥が、きゅっと締めつけられるのを感じた。
今日、俺は琴音と千歌を迎えに行き、
2人と合流して今電車に乗って神谷崎高に
向かっている。
……当たり前みたいに、
理央の名前を出すんだな……。
彼氏だもんな。
それが“恋人”になった証拠だと
分かっているからこそ、余計に苦しい。
俺は意識的に一歩、琴音に近づいた。
電車が揺れたふりをして、
さりげなく肩が触れる距離まで近づく。
「混んでるから、離れないで。」
時々晃は強引な事を言ったり、
行動を取ったりするけれど、
私が困ってる時やなどはいつも
低く、優しい声になる。
昔から変わらない、幼なじみの声色。
「う、うん……」
「晃、ありがとう。」
琴音は驚いたように一瞬俺を見るが、
拒まない。
その小さな反応だけで、
俺の中の感情が騒ぎ出す。
距離を置くなんて、できなかった。
好きだって気持ちを隠したまま、
隣にいるって決めたんだ。
私はそんな二人を近くで見て、
胸の奥が少しざわついた。
アキ君……前より、はっきりしてきてる
琴音を理央君から取る気
はないって言ってたけど……。
言葉と行動が定まってない。
それでも、何も言わない。
この3人の関係が、
もう簡単じゃないことを知っているから。
──神谷崎高校・文化祭会場
校門をくぐった瞬間、
出店がいっぱい並んでいて、
人の活気と食べ物の甘い匂い、ソースの匂い。
呼び込みしてる人の声が一気に押し寄せる。
「すご……白鷺高と全然雰囲気違う。」
琴音が目を輝かせる。
ヤバい!
もう、この時点で楽しい!
クレープの匂いやたこ焼きの匂い!
既にお腹空いてきちゃった。
「理央君たちのクラス、」
「メイド・執事喫茶だって言ってたよね?」
「うん、2─2組早く行こ!」
「琴音ちゃん、めっちゃ楽しそう!」
「早く行きたくて仕方ないんでしょ(笑)」
「うん///。」
「だって、全然白鷺の文化祭と」
「違って新鮮でワクワクする。」
2年2組・メイド/執事カフェ
私達は、迷う事なく2年2組、
理央・夏奈ちゃん・遥陽君のいるクラスに
到着。
琴音
「ここだね、2年2組。」
千歌
「なんか、入るの緊張しちゃう。」
琴音
「確かに(笑)」
晃
「別に緊張する必要ないだろ?」
そう言って俺は何の迷いもなく、
琴音の横にぴたりと身体を寄せた。
そして……
自然な仕草で……
琴音の右肩に手を乗せる。
琴音
「晃……?!」
「なに?どしたの?」
驚いて小さく声を上げる琴音に、
晃は柔らかく微笑う。
晃
「人多いからさ。はぐれないように……。」
琴音
「私大丈夫だよ!」
晃
「何が大丈夫なんだよ……」
「さっき、ここ来るまでに」
「はぐれそうになってただろ。」
琴音
「うっ……バレてた?」
晃
「バレバレ。」
千歌
「琴音ちゃん、人混み弱いもんね。」
その距離は、アキ君……
どう見ても“幼なじみ”の域を越えている
ような……。
私は一瞬、息を呑む。
アキ君……暴走しないでね。


