君の事好きになっても良いですか?



俺は自分の部屋の電気もつけず、
ベッドの端に腰を下ろしていた。

静かすぎるほどの部屋。
耳鳴りのように、思考だけが響く。

――距離を取る。

さっきまで、それが正解だと思っていた。
いや、正解だと思い込もうとしていた。

だけど……

……それで、俺はどうなるんだ?

目を閉じると、今日の
眠っていた琴音の顔が浮かぶ。


無防備で、
何も疑っていない表情。


あの距離。
あの信頼。

それを自分から壊す覚悟が、
本当にあるのか?両手で顔を覆った。



”自分の気持ちを、大事にしなさい。”

母の言葉が、
ゆっくりと胸に沈んでいく。

”無理に、なかったことにするな。”

父の声が、
静かに背中を押す。

――大事にするって、なんだ。

諦めることか?
離れることか?

それとも――
ちゃんと、向き合うことなのか?

ふっと息を吐いた。

俺、逃げようとしてたな。

“奪わない”
“壊さない”

それを盾にして、
本当は一番怖いことから目を逸らしていた。


それは――
琴音のそばにい続けること。


好きなままで、
何も起きないかもしれない距離に、
自分を置き続けること。


それは、
離れるよりずっと残酷だ。



俺は、ゆっくりと立ち上がる。

カーテンを少しだけ開けると、
街灯の光が床に伸びた。

消さない……。

その言葉が、
自然と心に浮かぶ。

――この想いを、消さない。

誰にも押し付けない。
でも、なかったことにも、しない。

距離を、詰める。

それは、
手を伸ばすことじゃない。

キスをすることでも、
想いをぶつけることでもない。

“離れない”と決めること。

琴音が笑う場所に、
ちゃんと立ち続けること。

彼女が困ったとき、
一番に駆けつけられる距離にいること。

それが、
今の自分にできる最大の覚悟だった。