君の事好きになっても良いですか?




「合計で、550円になります」


理央は会計を終えると、
小さく頷いた。


「……後で、近くの本屋で待ってるね。」

声を落として、短く伝える。


「うん、わかった。」


それだけの会話。
それなのに、俺の胸は不思議と落ち着いた。

ちゃんと、俺のところに戻ってくる。

そう思えたから。

トレーを受け取り、席へ向かう途中、
俺は一度だけ振り返った。


制服姿の琴音が、
次のお客さんに向けて笑顔を作っている。

ああ……

好きだな……大好きだな。





俺は琴音の横の男子にも少し目線を
向けると、向こうも気付いたようで
俺を見たが、すぐに目線を逸らした。

その後俺は、店内でチョコサンデーと
アイスティーを食べた。
そして時間は、静かに夕方へと向かっていった。





店内に流れていたBGMが、
夕方用の落ち着いた曲に変わる。
壁の時計の針が、ぴったり17時を指した。

「小川さん、矢口君上がって大丈夫だよ。」

キッチン奥から、先輩の声がかかる。

「はい!わかりました。」
「お先に失礼します。」



「琴音ちゃんお疲れ様。」


「お疲れ様です。」

琴音はレジ横で一礼し、
慣れた手つきで作業着のエプロンを外した。


終わった……。
長かった……。


朝から立ちっぱなしだった足に、
じわっと疲れが広がる。



それでも、不思議と気持ちは軽かった。

理央に今から会える!

早く会いたい!



更衣室で私服に着替えながら、
今日、一日の出来事が頭をよぎる。

初めての後輩、矢口君。

昼休憩の告白。

そして、理央が店に来た時の、あの視線。

今日、……色々あったな。

鏡に映る自分の頬が、少しだけ赤い。

理央のあの視線を思い出してしまった。



私は、タイムカードを退勤で押して
更衣室を出て、従業員専用の
出入口まで来くると……


「琴音先輩!」

出入口の前で、矢口君が声をかけて
私の方に向かってきた。


「お疲れさまでした。」


「お疲れさま。」
「今日はありがとうね。」



「こちらこそ色々教えてくださり」
「ありがとうございました。」


「あの……本屋まで、送ります。」


私が本屋に行くってなんで知ってるの……
あっ……理央との会話聞こえてたのか。
矢口君私の隣りに居てたもんね。

一瞬、琴音は迷う。

早く行かないと……理央、待ってるよね。


「じゃ、本屋の近くまでなら」
「お願いしようかな。」


「はい!」

矢口君はどこか
嬉しそうに頷いた。




琴音先輩と店を出た瞬間、
外の空気が一気に涼しく感じられる。

終わったな……今日。

朝からずっと一緒だった時間が、
こうして終わるのが、少し名残惜しい。

横に並んで歩いてる琴音先輩、
疲れてるのに……
ちゃんと俺のこと気遣ってくれる。

歩く距離は、ほんの少しだけ近い。

これ以上近づかない。

そう、自分に言い聞かせる。

後輩の線は、守らないとな。



しばらく琴音先輩の横に並んで
歩くとあっという間に、本屋が見えてくる。



「あっ、理央!」


琴音先輩が前を指差し、
一気に琴音先輩の表情が
明るくなるのが一目瞭然でわかる。

ガラス張りの本屋の前に、
琴音先輩彼氏の姿が見えた。

スマホを見ながら、
それでも時々顔を上げて、
店の方を確認している。

きっと、琴音先輩の事が
大好きなんだろうな……。

かっこいい人だな……。
男の俺から見てもそう思ってしまう。


……やっぱり

俺は、その姿を見て悟った。

この人には敵わない。

胸の奥が、少しだけ痛む。