昼のピークを少し過ぎた時間帯。
店内はまだ賑わっているものの、
慌ただしさは落ち着き始めていた。
「次のお客様どうぞー。」
琴音の声が、カウンターに澄んで響く。
俺は、
その声を聞いた瞬間、
胸の奥がぎゅっと掴まれた。
……琴音だ。
店内に入った俺は、
自然と足が彼女のレジへと向かう。
客として来ただけ。
そう思っているのに、
並んでいる間、
視線はずっと琴音から離れなかった。
店の制服姿の琴音は、
学校の制服で見るより少し大人びて見える。
知らない顔してる……。
前のお客さんが会計を終え、
琴音が顔を上げた瞬間、目が合った。
一瞬だけ、互いに表情が揺れる。
「……理央」
えっ……ええええ!?
理央!?
なんでここいるの?
待ち合わせ17時過ぎだったはず
なんだけど……。
私、伝え間違えた?
「琴音」
ほぼ同時に、名前を呼んでいた。
琴音は瞬きをしながら俺の
顔をじっと見ている。
そりゃ驚くよね……。
ごめん……勝手に来てしまってと
心の中で謝っていると、
琴音の横にいる男の子の視線が俺の方に
向けられていた。
琴音先輩の隣りでトレーを拭いていた
俺は、はっきりと見ていた。
あっ……あの人
やっぱり、彼氏だ……。
二人の間に流れる空気は、
言葉よりも雄弁だった。
「ご注文はお決まりですか?」
私はすぐに表情を整え、
いつもの“店員の顔”に戻る。
仕事中だもん……。
理央が、バイト先に来るなんて
思っても見なかった。
胸の鼓動は少し早いが、
それを表に出すことはしない
ようにした。
俺はは、琴音の接客モードの
切り替えに少しだけ驚いた。
……すごいな。
ちゃんと、線引きしてる。
「あっ、えっと……」
理央はメニューを見つめるふりをしながら、
琴音の存在を意識しすぎないようにする。
「チョコサンデーと、」
「アイスティーお願いします。」
「サイズはMでよろしいですか?」
「はい。」
淡々と進むやり取り。
それでも、声だけは
確かに“知っている琴音”だった。
この距離で、名前呼ばれて、
平然としてるの、ずるいだろ。
理央は内心で苦笑する。
横でトレーを拭いていた俺は、
2人のやり取りをじっと見ていた。
彼氏さん……余裕だな。
琴音先輩は、特別扱いもしない。
視線も、必要以上に向けない。
でも……
分かっちゃうんだよね……。
名前を呼び合った一瞬。
それだけで、2人が
“恋人”だと十分伝わった。
入る隙、ないな……。
それでも、胸の奥に残る感情を、
俺はまだ手放せずにいた。


