一歩、距離を詰める。
琴音が、逃げずに顔を上げた。
「……理央。」
呼ばれた名前が、やけに愛おしい。
キスしたい……。
俺はそっと、琴音の頬に手を添えた。
指先が触れた瞬間、彼女が小さく息をのむ。
「嫌だったら、言って。」
そう言うと、琴音はゆっくり首を横に振った。
「……嫌じゃない……よ。」
その答えを聞いて、俺はそっと唇を重ねた。
最初は、触れるだけのキス。
でも、離れようとした瞬間、
琴音の指が、俺の制服の裾をきゅっと掴んだ。
――離れたくない。
──好き。
その気持ちが、そのまま伝わる。
もう一度、そっと唇を重ねる。
今度は、さっきよりも少しだけ長く。
深く、気持ちを確かめるみたいに。
時間が、ゆっくり溶けていく。
やがて、名残惜しく離れると、
琴音の頬は、ほんのり赤く染まっていた。
「……理央。」
「うん。」
「心臓、すごくうるさい。」
今日の、キス……いつもより長くて
ドキドキが止まんないよ……。
全然頬が赤いままで、微熱が
あるみたいに身体が火照る。
理央……私、こんなの初めてだよ……。
「……俺もだよ。」
そう言って、俺と琴音は小さく笑った。
額を軽く合わせると、
琴音は安心したみたいに目を閉じた。
このまま時が止まれば良いのに……。
大事にしたい。
触れるたび、そう思う。
それは、衝動じゃなくて、
確かな気持ちだった。
――静かな部屋で、
二人の距離は、また少し近づいていた。
*その頃の晃*
俺は、自分の部屋で天井を眺めながら
スマホを握りしめる。
”理央の家”か……。
想像するだけで、胸が苦しくなる。
「琴音が……好きだな。」
声に出すと、余計に痛くなる。
でも、後悔はしてない。
想いを伝えたことも、
振られたことも。
それでも、
簡単には消えないんだよ……。
俺は、腹いせに
琴音と居るとわかっておきながら
理央に電話を掛けていた。
案の定電話には出ない……。
そりゃそうだ。
2人の時間だからな……。
―――夜へと続く、その始まりだった。


