*理央*
「ただいまー。」
玄関から声をかけると、
キッチンの方から母さんの声が返ってくる。
「おかえり。」
「今日は遅かったわね。」
「夏奈ちゃんと遥陽君に会ってたの?」
「違うよ。」
リビングに入ると、
母さんはフライパンをガスコンロから
離しながらこちらを見てくる。
「その顔、何かあったわね。」
俺は、見透かされたような気が
して苦笑いしながらソファーに腰を下ろす。
「母さん。」
「何?」
「改まって。」
「俺さ、彼女出来た。」
母さんの動きがピタリと止まる。
「えっ?」
「あら……そうなの?」
「今日一緒に出かけた子、」
「琴音ちゃんって言うんだけど……」
母さんはゆっくり俺の方に、
振り向き少し驚いた表情のままで言った。
「琴音ちゃん?」
「初めて聞く名前ね。」
「珍しいわね、今までそう言う話し」
「ほとんどなかったのに。」
「うん……」
「今までの、付き合ってた人の事は」
「言わなかった。」
母さんは、夜ご飯の支度を中断して
話しを黙って聞いてくれる。
「でも、今回は違うんだ。」
俺は照れながらはっきりと、
言葉にする。
「俺、琴音に一目惚れしたんだ。」
「朝の通学電車の中で、一瞬で」
「心、持って行かれた。」
「まぁ!」
「青春ね。」
母さんの表情が柔らかくなる。
「今日、初めてデートした。」
「映画行って、夜ご飯食べて、公園も行って。」
「俺、琴音の事本気で好きになった。」
「こんな気持ちは初めて。」
「自分から女の子を好きになるのも」
「初めて。」
俺の言葉を聞いて、母さんは優しい顔を
して微笑む。
「だから初めて言ってくれたのね。」
「うん。」
母さんは俺の前に座り、
真面目な声で言う。
「その子の事大事にしなさい。」
「一目惚れでも、ちゃんと向き合ってるなら」
「それは本物の恋愛よ。」
「母さん……。」
「それに、”琴音”って呼び捨てで」
「呼ぶあたり、十分本気なの伝わったわ。」
「そこ言う?」
「すげぇ、恥ずかしくなる(笑)」
照れた俺に、母さんはクスッと笑う。
「その子は、ちゃんと理央の事」
「好きなんでしょ?」
「もちろん!」
「なら、それで良い。」
「初めて、親に報告したくなった」
「相手なんでしょ?」
「そうだよ。」
「母さん……」
「なに?」
「俺、琴音を大切にする。」
母さんは、少し目を細めて穏やかに言った。
「ええ。」
「その真剣な顔見たから」
「信じられるわ。」
いつの間にか夜になった、
住宅の光がリビングに差し込む。
胸の奥に残る、デートの余韻に
浸って俺はジンズのポケットから
スマホを手に取る。
──そろそろ送っても良いかな。
俺は、琴音にtalkメッセージを送る。
理央 side 終わり
第13話 ファーストキス
END


