夏休みも残り5日。
その数字だけ意識した瞬間から、
夏休みが名残惜しくなる。
「理央君、今日楽しみだね。」
改札を抜けたところで、
琴音ちゃんはそう言葉を発して
柔らかい笑顔を俺に見せる。
その笑顔を見た瞬間、
俺の心臓はまたあの日の電車で、
琴音ちゃんを初めて見た時と
同じように跳ね上がる。
学校に行く電車で、偶然目に入った
横顔。
名前も知らなかったのに、
目が離せなくなったあの日。
本当に衝撃だったなぁ……。
「うん、楽しみ。」
「やっと劇場版、一緒に観られるね。」
同じアニメが好きで、
アニメの話しで盛り上がったりもして
同じキャラが推しで、胸を高鳴らせた。
それが今、恋人として並んで歩いてるなんて
少しの事でも特別になる。
映画館のロビーでは、青空ワールドの
ポスターが3枚展示されていた。
これ、夏奈も欲しそうだな。
夏奈も青空ワールドが好きで、
夏奈が琴音ちゃんに話しかけたきっかけが
このアニメからだった事は後から知った。
俺は夏奈に感謝でいっぱいだ。
空を駆け抜けるスカーレットのポスターを
見た琴音ちゃんも俺もテンションが
上がる。
琴音ちゃんは無意識に俺の袖を掴んで
言う。
「ねっ……このスカーレットが」
「空を駆け抜けるシーン予告だけで」
「泣きそうだったよ。」
「俺も、ここ予告で観た時」
「泣きそうになった!」
「絶対、琴音ちゃんもここで」
「泣くだろうなぁと思ってた(笑)」
そんな他愛ない会話が嬉しくてたまらない。
上映時間に近付くと俺と琴音ちゃんは、
事前に予約したチケットを券売機で
発行し、指定の席に横並びに座って、
劇場版青空ワールドを鑑賞した。
私達は映画を観終えた後も、
2人の胸にはまだ物語の余韻が残っていた。
青空ワールドの世界から、現実に戻って
きたはずなのに気持ちはどこか
夢の続きにいるみたいだった。
「やっぱり、劇場版は凄かったね!」
映画館の近くのレストランでの席で
私は少し興奮した声で言った。
窓の外には、夕方の柔らかな光。
「うん。」
「でも俺、途中から内容」
「ちゃんと覚えてない。」
「えっ?なんで?」
「琴音ちゃんが隣りに居たから。」
「可愛いくて琴音ちゃんばかりに」
「意識してた。」
「……/////////。」
思わず言ってしまった本音に、
俺は慌てて視線を逸らす。
琴音ちゃんの頬が、夕焼けよりも
赤く染っていた。
*晃*
夕方の街は、人通りが増える時間帯だった。
俺はただの用事の帰りで、
特に目的もなく歩いていた。
俺は、この付近で人気のレストラン前を
通りかかった時だった。
ガラス張りの扉が開いて、
見覚えのある後ろ姿が視界に入る。
──琴音。
一瞬で息が止まる。
その隣りに居るのは………理央。
胸の奥が鈍く痛む。
並んで歩く2人の距離は近くて、
会話の中なのか、琴音は俺には見せない
笑顔を理央に向けていた。
あぁ……そうか……。
わかっていただろ……俺。
もう、あの2人は付き合ってるんだよ。
俺は選ばれなかったんだ。
目の前の光景は、頭で理解していた
現実を容赦なく突きつけてくる。
俺は、咄嗟に物陰に身を寄せた。
見てはいけないものを見てしまった気がした。
もう、終わっただろ……。
告白して、フラれて答えは出たはずだろ。
琴音からキッパリ言われただろ?
”幼なじみとしてしか見られない”って。
今も、脳に染み付いてる。
なのに───
琴音が笑顔で笑う度、胸の奥が反応
してしまうんだ。ドクドクと……。
小学校の頃からずっと隣りに居た。
何でもない帰り道を一緒に帰って、
お互いの家を行ったり来たりしてさ。
そんな事がこれからもずっと続くと
思ってた。
琴音は鈍感だから、恋愛は大丈夫
きっと好きな奴なんて出来やしないし、
彼氏なんてもってのほかだと、
俺はなめていた。
だから、そのツケが来たのだと思う。
諦めろよ……。
自分が、一番わかってる。
今更、何も出来ない事も。
でも、どうしても心は言うことを聞かない。
「好きなんだよ……。」
誰にも聞こえない声でそう呟いていた。
それが、情けなくて辛くて、苦しい。
2人は、公園の方へ歩いて行く。
夕方の景色と2人の影が重なっていくのが
見えた。
”俺はもう、隣りにずっと立てないんだな。”
わかっている。
わかっているのに……この想いを
手放せない。
ゆっくり目を閉じ、息を吸う。
目を開けると、夕方の空はやけに
綺麗でそれが余計、俺の心を
締めつけていた。
晃 side 終わり


