俺が歩き出すと、その後ろをちょこちょことついてくる。

手を差し伸ばしてみる。


「沙夜ちゃん」

「ん」

「昇降口まで手繋ご」


俺の手をじっと見つめてくる。


「昇降口までと言わず、駅までも」


ただただ触れてみたかった。

沙夜ちゃんの体温に触れていたかった。

だけど彼女は、首をふるふると横に振り俯いた。


「まだ早いか。ごめん」


付き合い始めてまだ数時間。

初めての彼氏だと言っていたっけ。


「まっすぐ帰る?」

「…うん」

「そっか、分かった。放課後デートはまたの機会だね」


俺が前を向いて歩き出すと、沙夜ちゃんも俺の後ろを歩く。

これじゃ、まだカップルに見えないじゃん…。

ちゃんとカップルに見られたい。

ワガママかな。

減速して沙夜ちゃんの横につく。

少しビックリしたのか、上目遣いで見上げてくる。


「横、歩きたいな。昭和時代のカップルじゃないんだからさ、前後で歩くなんて」


彼女は、納得したんだかしてないんだかみたいな顔で前を向き直って、リュックの肩紐をぎゅっと握った。

まだ、心を開いてもらえてないのかな。

無言で昇降口まで行く。