彼女は、荷物を持って部屋を出て行った。

ドアをバシンと閉めて。


やばいやばいやばい。

何やってんだ俺。

一時の感情で、愛する彼女を傷付けて泣かせてしまった。

腰が抜けて、その場にへなっと座り込んだ。


違うんだ。

あれは冗談で。


そんなの通じない。


とにかく、謝らなきゃ。


…ん?

視界の端に沙夜ちゃんのアウターが入る。

上着も着ずに帰ったのか。


上着を持って追いかけた。


「いない…!」


家から最寄り駅までの道は一本道じゃない。

運に任せて右に曲がったのが良くなかった。

左に行ったのか…そうか、そういやさっきそっちから来たじゃん、俺の馬鹿…!


慌てて沙夜ちゃんのスマホに電話をかけた。

お願い出て…!

今日の気温は10度。

ニットを着ていたけど、上着無しで帰るには寒すぎる。

そして、ちゃんと目を見て、顔を合わせて謝らなきゃいけない。

電話には出ない。

今から追いかけて電車に乗り込んだところで、彼女の家どころか、本当の最寄り駅なんか知らない。

俺は立ちすくんだ。

立ちすくむしかなかった。


「沙夜ちゃん…」