「王子谷せーんぱいっ!」
後輩男子が、さっきまでの怪訝そうな顔とは打って変わって、満面の笑顔で声をかけてきた。
俺の名を呼ぶだけで分かる、陽キャ、人懐っこい、といったキャラクター性が分かる。
「俺は、葉山央翔です!俺が沙夜姐と王子谷先輩の時間奪っちゃったのは申し訳ないです。小学生の頃から勉強に関してはバカで、この高校入るのもなかなか苦戦しましたよー。入ってからも、序盤はなんとかなりましたけど、もうわかんなくなっちゃったので、沙夜姐に頼ることにしちゃいました!」
「はあ…」
「とはいえ、沙夜姐のこと泣かせるとか彼氏失格ですね」
「え?」
沙夜ちゃんの方を見ると、机がぽつぽつと濡れていた。
「あっ、沙夜ちゃんごめ」
彼女に触れようと手を伸ばした。
叶わなかった。
「触んな」
さっきまでの明るい声と話し方が嘘のようだった。
央翔が立ち上がって間に入り、沙夜ちゃんの肩をさすって、
「俺が勉強教えてもらってたせいで、彼氏に怒られちゃったね。ごめんね?」
明るい声で、沙夜ちゃんに声をかけていた。



