「沙夜姉ー、なんで移項する時+3が-3になるわけ?」


男の声?

沙夜姉?

安堵したのも束の間、衝撃の事実が分かる。


「例えばx+3>5はx>2になるでしょ?省略された部分を細かく書くなら、x+3-3>5-3かな。両辺から単に-3しているだけだよ。単に短く、+3を右辺に移項すると-3になる、って表現してるだけ」

「沙夜姉わかりやす」

「へえー!沙夜ちゃんすごーい」


俺は教室を探し当てて、入っていった。

後輩であろう、こないだニコッとしてきたイケメンは怪訝そうな顔をし、沙夜ちゃんはギョッとした顔をしてこちらを見た。

やっぱりな。あの笑顔は知り合いだったか。


「帰ったんじゃないの…?」

「バスケしてた。で、これはなーに、後輩と密会?」

「ただの勉強会だけど?」

「俺 、勉強するとしか聞いてないけど?」

「してますけど…?」

「あれかな?保健の実技かな?」

「どっからどう見ても数I不等式じゃん」


ふーん。


「それで?俺がなんでイライラしてるか分かってる?」

「…浮気してると勘違いしてる、とか?」

「ああ、浮気なんだ?」

「中学の後輩だよ、勉強苦手だからって最近教えてただけ」

「後輩男子に勉強教えてること、それで俺との時間妨げられたこと、他の男との連絡黙ってたこと、それにイライラしてんの。はあー」


萎縮して黙り込んでしまった沙夜ちゃんは、下を向いてしまった。