その日の放課後。


「今日も勉強?」

「うん、ごめん」

「ううん。2年から急に難しくなったからねー。じゃ、また明日!」

「またねー」


しくしく。

今日も1人寂しく下校か…。

しくしく。


校庭で、明達男子がバスケして遊んでる。

うわー、混じりてぇぇ。

眺めていると、明と目が合う。


「お、王子谷じゃん。1人足りなくてさ。やってく?」

「乗った」


気付けば17時半。


「あっつー!めちゃくちゃ汗かいた!」

「帰ろうぜー」

「帰っ…あ」


沙夜ちゃんのことを思い出す。


「ごめん、先帰ってて」

「おうよ、じゃあなー」

「じゃあ!」


タオルで汗を拭きながら、沙夜ちゃんを捜す。

図書室、進路相談室、と捜すがいない。

帰っちゃったかなー?

と思いつつ、自習室の可能性も捨てきれないと、1年生の階である2階を通る。

空き教室から、何やら聞き慣れた声が聞こえた気がした。


「3x+2=8がx=2になるのは、中学で散々やったから分かるでしょ?3x=8-2だから、3x=6、x=6÷3、即ちx=2だね。不等式は、イコールが大なりになるだけ。じゃあ3x+2>8を解いてみよう」


沙夜ちゃんの声だ。

不等式の勉強?

そんなの数Iの単位じゃないか。

なーんだ、後輩に教えてるのか。