「え」
僕は、思わず手の中のノートを見た。
この藍色のノートが僕のもの。上等そうなこのノートが。
しみじみとそう思ってページをめくってみる。
「読める」
さっきまで読めなかった蒼いインクの波が、小さい頃から慣れ親しんだ言葉のようにするすると僕の頭にはいって来た。

「美しい言葉だね」
「そう、かな」
「これは全部、きみが書いたのかい」
「そうだ」
読んだ先から蒼い波に暖かくふかふかと漂うような言葉達。
穏やかで、それでいて心を揺さぶる。押しつけがましくはない。
するり、と水のように流れて来て、ときめく -
まるでこの茜が混じった橙色の教室の色のように素直で、特別で、そして、
(愛)

「きみが返事を書いてくれ。そのノートに」

「書けるかな」
「書けるよ」
級友はそう言って少し微笑んだ。
かおの半分に橙色が当たって片方だけ化粧をしたように、艶やかに美しいいろに染まった。

「そしてそのノートを、今度は僕の机に置いてくれ」