誰もいなくなった教室には、西日がななめから入っていた。

大きな窓からたっぷりと入る茜を含んだ橙色が、
長い間使い込まれ飴色にあせた机達の半分の表面を上質なもののように輝かせていた。
僕は放課後の教室が好きだ。
誰もいない教室で、西日と言う光を与えられた机たちは今にも歓喜の歌を歌い出しそうにきらきらと輝いて見える。それでいて夕方から夜へ向かうと言う後ろ暗さのようなものも秘めている。光と影は表裏一体なのだと気づいて息を呑む。闇をはらんだ美しさに言葉を失う。そんな刻限。

黒板の斜め上に据え付けられたスピーカーから聴こえて来るのは「遠き山に日は落ちて」。ドヴォルザーク作曲の交響曲第9番「新世界から」第2楽章。
僕の学校では下校をうながす曲だ。

僕の机の上にノートが1冊あった。

見慣れないノートだった。
そのノートは僕たち中学生が良く使う一つ綴じのものではなく厚みがある四つ綴じで、表紙は藍色をしていた。
僕のものではもちろんない。誰かが間違えて置いたのだろうか。
僕は持ち主の名前がないか表をまず見て、銀色の文字で印刷された会社名だか商品名を確認し、
それから裏返してみたけれど、やはり持ち主の名前はなかった。

好奇心に負けて表紙を開いてみた。
そこには見たことのない言語がびっしりと書かれていた -