「ラララ」

「それ、何の歌?」
「ん?」
今日も、
さんさんと秋の光差し込むアトリエで、君は細い身体を揺らしながら謎の歌を歌う。

「ラララ」
本当はすぐ会社へ戻らなければならなかった。ライターのところへ行って遅れた原稿を取り立て、電車に乗ろうと小走りで駅へ向かっているところで、
君のアトリエがその駅の近くのマンションの一室にあることを思いだしたのだ。

大きなガラスドアから差し込む11月のシトロンのやわらかな光。小さな油絵の入った額の数々に彩られた白壁。
白いトルソーにかけられたスワロフスキーのネックレス。濃い紫色から薄いピンクまできれいなグラデーションになっている。
部屋の真ん中に据えられた大きなカンヴァスには水彩絵の具の蒼。ゆったりとした白いインド綿のチュニックと群青色のスキニージーンズ。落ち葉みたいな茶色のストレートの髪は白いシュシュで後ろでひとくくりにする。透き通るようなうなじに映える後れ毛。
デニム地のエプロンをした美しい君は、片手に面相筆、片手にブリキのカップ。舞うような軽いステップを踏みながら跳ねる高音で歌う。

君はとっても自由な芸術家。