「ひいらぎセンパイ! 帰りましょー!」
学校の授業が終わり、帰りの支度をしている時だった。
放課後になり、周りの同級生が談笑し始める中、私はカバンに教科書やノートを詰めていたが、チャイムが鳴ってまだそんなに経っていないのに、彼は私の教室に突撃してきた。
「何? あの子、可愛いよね?」
「結構イケメンじゃね? 一年生かな?」
「なんだあいつ」
クラスメイトがざわつき始め、私の名前が呼ばれたわけでもないのに、焦燥感と恥ずかしさに駆られる
「ちょっと、なんでここまで来てるの!」
床を蹴って立ち上がり、ガタンと音を立てながらも、彼に圧迫するように近付いた。
「何って、センパイ、オレと付き合ってるじゃん。だから迎えに」
「私、あなたと付き合ってないんだけど!? それよりさっさと行くよ! ここじゃ目立つ!」
「え!? オレたち付き合ってないの!? ってうわ!」
私は彼を引っ張り、周りの視線を払いのけるように、カバンを掴んでそそくさと教室を抜け出した。
「ちょ、センパイいつまで引っ張るんですか!?」
校舎を出たあとも私は彼を引きずり、彼に言葉をかけられるまで手を離さなかった。
「ここくらいまでくればいいかな」
周りを見渡して、掴んでいた彼の袖から手を放し、振り返る。
すると、まだ春野くんは手をこちらに寄せたまま、腕を宙に浮かせていて。
私の手は彼から離れているよな、と錯覚するぐらい、彼の手は依然と静止している。
そして、俯きがちに頬を染めていて、その顔はどこか間の抜けた、何かに心を奪われている顔。
「……? どうしたの、ケイくん」
「い、……いえ。意外とまだ手を掴まれていたかったなって」
「何言ってるの? そっちが離せって言ったんじゃないの?」
「そうだけど、意外と悪くないなって。へへへ」
いつものふざけている彼らしくない反応だった。
春野くんは女慣れしてそうな見た目だけど、今はどこかウブな男の子に見えて。
でも。なぜだろう。
彼の顔には、照れて嬉々とした顔をしているはずなのに、どこか影を感じる。
なにか、強大な闇が背後に彷徨いているような。
「センパイ、嫌だったら離してくださいね」
「えっ?」
彼の顔をまじまじと見ていたから、彼の行動には反応できず、咄嗟に声を上げてしまう。
がしっ。
そっとだけどいきなり彼は私の手を掴んだ。
そしてそのまま、彼が私を引っ張り駆け出した。引っ張り過ぎて私が転ばないよう、走るペースを合わせてくれている気がする。
でも、やっぱり男の子なのかな。足が速い。
「ちょちょちょ、待ってよ!」
「センパイ! ほら、走って走って」
はははと笑う彼の横顔は幸せそうで、つられて私も微笑む。
最初告白された時は戸惑ったけど、彼といるのも悪くないかもしれない。
少しは付き合ってあげてもいいのかな、と頭の片隅でぼんやり考えていた。
「いやー、いい風ですね」
「……うん」
私たちは、学校近くの河川敷の土手に座っていた。
草むらが広がる土手はふわふわしていて座りやすく、草の青臭い匂いが落ち着く。
ふんわり風が頬をなで、照りが強まる太陽に当たって、夏の始まりかなと少々の暑さに感慨に耽った。
そういえば、人生を諦めてからは季節の変わり目や気温を意識しなかったかも。
「暖かいね。ちょっと暑いくらい」
「そうですね、少し暑いかも」
ぼんやり風に当たる私は陽気な気分になり、そのまま草むらに寝込んで昼寝してもいいくらい。
だからかな。
気づけば私は彼の手をそっと握っていた。
「私、君と友達からなら始めてもいいよ」
「……え!? まじですか!? やった! こちらこそぜひ!」
彼はちゃっかり手を強く握り、もう片方の手でガッツポーズ。
ふふふ、と私は思わず笑みをこぼして、子供っぽくて可愛いな、なんて一人の女の子としての感想を抱く。
「あ、センパイ笑った! 笑いやがった! こんにゃろー!」
むむむ、と彼は頬を膨らませて、手を握った手をブンブン振り回し、つられる私の手は少し痛い。
「分かった分かった、分かったから手を振り回さないで」
「むむー! センパイひどいな! ひどいにゃー! にゃにゃにゃー!」
ふざける彼を見て、ふざけ方もあざといなと表情筋を緩めながら。
彼が教室に来た時、同級生の女子が可愛いと言ってたけど、やっぱり可愛らしいよね。
女装が似合うかもと思ったのは間違いなかった。今度誘って女性用の服を着させてみようかな。
私の中の小悪魔がぐへへと笑うのを、天使が撃退している中、私は話しかけた。
「ねえケイくん、ケイくんは私のこと好きなの?」
こんな事を彼に訊くのは、愚問だろう。返ってくる答えなんて分かってる。
「好きの好き、大好きですけど、センパイはオレのこと好きですか?」
ほらっ、やっぱり。だよね、君は、そういうよね。
「……まだ、分からない」
分からないと言ったけど。
私は、この時間がずっと続けばいいと思った。
この、優しいマシュマロみたいな雰囲気に、私はしばらく埋もれていたい。
でも、それは叶わないのは知ってる。だけど、私はまだ彼といたかった。
私は彼の事が好きなのか。彼に抱いてるこの気持ちは本物か、本当に一緒にいたいのか、知りたくて。
そっと、恋人のようにケイくんの肩に頭を乗せた。
まるで当たり前のように。
学校の授業が終わり、帰りの支度をしている時だった。
放課後になり、周りの同級生が談笑し始める中、私はカバンに教科書やノートを詰めていたが、チャイムが鳴ってまだそんなに経っていないのに、彼は私の教室に突撃してきた。
「何? あの子、可愛いよね?」
「結構イケメンじゃね? 一年生かな?」
「なんだあいつ」
クラスメイトがざわつき始め、私の名前が呼ばれたわけでもないのに、焦燥感と恥ずかしさに駆られる
「ちょっと、なんでここまで来てるの!」
床を蹴って立ち上がり、ガタンと音を立てながらも、彼に圧迫するように近付いた。
「何って、センパイ、オレと付き合ってるじゃん。だから迎えに」
「私、あなたと付き合ってないんだけど!? それよりさっさと行くよ! ここじゃ目立つ!」
「え!? オレたち付き合ってないの!? ってうわ!」
私は彼を引っ張り、周りの視線を払いのけるように、カバンを掴んでそそくさと教室を抜け出した。
「ちょ、センパイいつまで引っ張るんですか!?」
校舎を出たあとも私は彼を引きずり、彼に言葉をかけられるまで手を離さなかった。
「ここくらいまでくればいいかな」
周りを見渡して、掴んでいた彼の袖から手を放し、振り返る。
すると、まだ春野くんは手をこちらに寄せたまま、腕を宙に浮かせていて。
私の手は彼から離れているよな、と錯覚するぐらい、彼の手は依然と静止している。
そして、俯きがちに頬を染めていて、その顔はどこか間の抜けた、何かに心を奪われている顔。
「……? どうしたの、ケイくん」
「い、……いえ。意外とまだ手を掴まれていたかったなって」
「何言ってるの? そっちが離せって言ったんじゃないの?」
「そうだけど、意外と悪くないなって。へへへ」
いつものふざけている彼らしくない反応だった。
春野くんは女慣れしてそうな見た目だけど、今はどこかウブな男の子に見えて。
でも。なぜだろう。
彼の顔には、照れて嬉々とした顔をしているはずなのに、どこか影を感じる。
なにか、強大な闇が背後に彷徨いているような。
「センパイ、嫌だったら離してくださいね」
「えっ?」
彼の顔をまじまじと見ていたから、彼の行動には反応できず、咄嗟に声を上げてしまう。
がしっ。
そっとだけどいきなり彼は私の手を掴んだ。
そしてそのまま、彼が私を引っ張り駆け出した。引っ張り過ぎて私が転ばないよう、走るペースを合わせてくれている気がする。
でも、やっぱり男の子なのかな。足が速い。
「ちょちょちょ、待ってよ!」
「センパイ! ほら、走って走って」
はははと笑う彼の横顔は幸せそうで、つられて私も微笑む。
最初告白された時は戸惑ったけど、彼といるのも悪くないかもしれない。
少しは付き合ってあげてもいいのかな、と頭の片隅でぼんやり考えていた。
「いやー、いい風ですね」
「……うん」
私たちは、学校近くの河川敷の土手に座っていた。
草むらが広がる土手はふわふわしていて座りやすく、草の青臭い匂いが落ち着く。
ふんわり風が頬をなで、照りが強まる太陽に当たって、夏の始まりかなと少々の暑さに感慨に耽った。
そういえば、人生を諦めてからは季節の変わり目や気温を意識しなかったかも。
「暖かいね。ちょっと暑いくらい」
「そうですね、少し暑いかも」
ぼんやり風に当たる私は陽気な気分になり、そのまま草むらに寝込んで昼寝してもいいくらい。
だからかな。
気づけば私は彼の手をそっと握っていた。
「私、君と友達からなら始めてもいいよ」
「……え!? まじですか!? やった! こちらこそぜひ!」
彼はちゃっかり手を強く握り、もう片方の手でガッツポーズ。
ふふふ、と私は思わず笑みをこぼして、子供っぽくて可愛いな、なんて一人の女の子としての感想を抱く。
「あ、センパイ笑った! 笑いやがった! こんにゃろー!」
むむむ、と彼は頬を膨らませて、手を握った手をブンブン振り回し、つられる私の手は少し痛い。
「分かった分かった、分かったから手を振り回さないで」
「むむー! センパイひどいな! ひどいにゃー! にゃにゃにゃー!」
ふざける彼を見て、ふざけ方もあざといなと表情筋を緩めながら。
彼が教室に来た時、同級生の女子が可愛いと言ってたけど、やっぱり可愛らしいよね。
女装が似合うかもと思ったのは間違いなかった。今度誘って女性用の服を着させてみようかな。
私の中の小悪魔がぐへへと笑うのを、天使が撃退している中、私は話しかけた。
「ねえケイくん、ケイくんは私のこと好きなの?」
こんな事を彼に訊くのは、愚問だろう。返ってくる答えなんて分かってる。
「好きの好き、大好きですけど、センパイはオレのこと好きですか?」
ほらっ、やっぱり。だよね、君は、そういうよね。
「……まだ、分からない」
分からないと言ったけど。
私は、この時間がずっと続けばいいと思った。
この、優しいマシュマロみたいな雰囲気に、私はしばらく埋もれていたい。
でも、それは叶わないのは知ってる。だけど、私はまだ彼といたかった。
私は彼の事が好きなのか。彼に抱いてるこの気持ちは本物か、本当に一緒にいたいのか、知りたくて。
そっと、恋人のようにケイくんの肩に頭を乗せた。
まるで当たり前のように。
