その頃、城を追い出された娘は泣きながら自分の集落に向かっていた。

 小角族の者の魔力はかなり弱い。
 その代わりに体力が他の高魔族の者達よりもある。
 角を強く掴まれた痛みも、もうとっくに平気だった。

 そんなことよりも、落ち込んでいた王子を励ますことが出来なかったのが悲しかった。

 彼はいつも難しい顔をしており、弟がいようとも心の中が孤独であろうと、族長のギダから何度も聞かされていた。
 選ばれた自分が“おあいて”になれば、少しは元気になってくれるかもしれないと思っていたからだった。

「王子様、あたし……」

 今でも彼の悲しげな表情が頭の中を去来する。

「……きっと、いなくなった弟の王子様を見つけてあげれば、王子様は元気になってくれる」

 自分にとって出来ることはそれだけな気がした。
 頭はあまり良くない、魔力は低い。しかし彼の言った通り、体力はある。
 自分は年端はいかぬとも、“強き大樹”とも言われた小角族なのだから。

「よぉし……!! 」

 早速彼女は、魔界で迷いやすい場所に弟王子を探しに行くことにした。

 …とはいえ小角族には、王族や他族、魔界獣たちにあるような大翼などない。
 魔族から少し外れた理にいる、魔女や魔術使いのように魔具も使えない。

「どのくらい歩くのかなあ?」

 魔界の誰しもが『行けば魔力尽きて還らず』といわれた迷いの森を、娘は一匹、歩いて目指した。