魔族の王子の進む道 〜俺様王子が魔王になるまで〜

 怯えていたゼラはそれを聞き、大きく息を吸う。

「王子様は、捨てたりなんかしないですっ!! 本当は優しい王子様なんだもん!! 」

 突然勢いよく言い返した娘。
 そばにいたその男は苦笑する。

「なんという娘だ……怯え泣いていたと思えば、王子は優しいだと? 」

「優しいですっ! それに、王子様は寂しかっただけです!! 優しいからずっと一生懸命頑張ってこの世界を見てくれようとしていたのに弟の王子様が突然居なくなっちゃって、誰かにそばにいて欲しかったんだと思います……でも、きっとそう言えなかった。寂しい気持ちと混乱がごちゃ混ぜになって、自分でもよく分からなかったのかも……!! 」

「お前というものは……」

 そばにいた男はゼラの話に聞き入り、やがてゆっくりと頷いた。
 その時、

「ゼラ!!」

 娘の母親が城の兵たちと共に会場に飛び込んできて、すぐさまそばに駆け寄る。

「母さん……!! 」

 ゼラと母親は安堵の表情を浮かべた。

 兵士長は周りを鋭く見渡し、声を響かせる。

「お前たち、何をしている!! 奴隷など、魔族同士の売買は前国王の頃から禁止されていたはずだ!! 」

 しかし娘のそばにいた男は、

「待て!! 」

と周りに言うとゼラの腕にそっと触れ、瞬時に鎖を外した。

 ゼラは驚き、彼を見つめる。

「え、兵士様? ……王子様ぁ?? 」

 気付くと、瞬時に男は兵士の姿に変わった。

 娘と母親は、すぐそばにいた貴族姿の男が見覚えのある相手だったことに驚く。

「「……兵士様!! 」」

「何!!? 」

 会場の者たちのざわつきも一層強くなる。