魔族の王子の進む道 〜俺様王子が魔王になるまで〜

「それはそれは……」

 その男は一層嫌な笑みを浮かべ、娘を見ながら言った。

「あの時は申し訳なかった……この集落で王子様に見合う年頃の娘さんはお嬢さんだけ。明るいお嬢さんがお相手なら、王子様もお元気になられるだろうと……。しかし王子様は未だ、弟君が見つからず相当お冠のご様子。“何か”なされませんでしたか、お嬢さん?? 」

「何か?? 王子様から? え〜と……」

 娘の母親が相手の嫌な気配を悟ったのか、娘を自分の背に隠す。

「娘はもう関係ありません。放っておいてくださいませんか、貴族様……」

「いえいえ、わたくしは娘さんに大役をお願いしてしまった、“償い”として今日は来たのです。良い医者を知っているのですよ。心の病も見てくださるお医者様です、お嬢さん」

 聞いた小角族の親子二人は首を傾げる。

「“心の病”?? 」

「王子様の命で行かれたのですから、ご機嫌を損ねていらっしゃる王子様の発言や行動によって娘さんが何か心に傷を抱えてしまうことがあります。それをお医者様は診てくれるんですよ。お母さん、わたくしに任せてはくださいませんか? 」

「ゼラの……心の、傷……」

………


 ゼラの母親は、娘が未だ語らない王子との会話の詳細などが気になっていたのだろう。
 かなり悩み、考え込んでいるらしい。

「……何か下心があるに違いないだろう、こんな下賤な男の言うことなど」

 彼はそうは思ったが、本来なら追い出した時点で自ら死を選ばれてもおかしくないほど傷付くであろうことを自身がしてしまったのも事実。
 しかしゼラが自分にされたあの酷い仕打ちを、なぜ母親にすら打ち明けなかったのかがずっと気になっていた。