それからの彼の雰囲気は、見た目にも分かるほど一層、影を背負うように暗くなった。

 城の者たちは半日も帰らなかった彼が戻ると早々に何かあったのかと尋ねたが、

「娘は助けた」

と答えただけだった。

 明らかに彼の様子がおかしいのだが、皆何があったのかも、彼が何を考えているのかも分からない。
 何も言わぬ主に、何時ものように接するしか無かった。


 彼は、娘や小角族の者達が気になって仕方なかった。

 要務が終わり一休憩入れるたび、何度も『見通しの間』に行こうと思った。
 しかしそこは要務の為の場所。自身の興味だけで見るなど、反している気がして気が咎める。

 それに、自分が不思議な気分になったあの一族の村を見てどうするのかなど、理由も目的も思い付きはしない。

 モヤ付いた気分を抱えたまま要務で世界を見渡し直ぐさま部屋を出ることを、彼は数日間繰り返していた。


「王子。何をお考えなのか存じ上げませんが、もっとお気を楽に持たれたらいかがでしょう……?」

 何やら落ち着かない彼を家臣が見兼ね、恐る恐る声を掛けてくる。

「分かっている……!」

 彼はやはり苛つきと焦りが入り混じった様子で返す。
 家臣はため息を付き、小さな声で愚痴た。

「……第二王子様ならば悩み続けるより動く方だというのに、ラインデンド様と来たら」

「何か申したか? 部屋に私だけにしろ、出て行け! 」

 彼は聞こえていた。
 そう、弟だったならば、悩み続けたりはしない。前向きな、あの娘のように自ら行動を起こしたはず。

「……。」

 しばらく考えたのち彼は、これは要務だと自分に言い聞かせ、見通しの間に入っていった。