魔族の王子の進む道 〜俺様王子が魔王になるまで〜

 彼は周りを見渡しながら食事をし、気付けば目の前にあったほとんどの料理を食べ終えている。

 この集落に来てから、自分の価値観が変わってしまった気がした。

 見えない霧で身を包み、直に触れないようにはしている。食器も寝床も浄化し、霧に毒味もさせた。
 それでも、見下していた低魔族の者達と話をし、食事をしている。

 王に成る者、差別区別をするのは良くない。
 けれど、今までの自分が変わってしまうような気がして怖かった。

「……帰る」

 彼はそれについては何も言い出せず、それだけを言い立ち上がる。

「おお、そろそろお帰りにならないと、王子様もご心配なさいますか。兵士様、今宵は長くお引き止めしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。そして娘を助けていただき、本当にありがとうございます……! 」

 族長も立ち上がり、周りの者達に言った。

「兵士様がお帰りになる。皆、お見送りだ! 」


「兵士様、本当にありがとうございました!! どうかお気をつけて……」

 娘の母親が言う。

「兵士様〜、ありがとうございましたっ! 」

 娘も言う。
 そして村の者たち皆も口々に礼を言い、見送りの言葉を彼に掛けた。

「あぁ」

「私どもは飛ぶ事は出来ません。申し訳無いのですが、こちらでお見送りさせていただきます。どうかお気をつけて」

 彼は族長の挨拶を最後に呑気な集落をあとにし、ようやく自らの城に帰っていった。