「ごめんなさい……。でも大丈夫、あたし平気だよ! 王子様は、弟王子様が心配なだけみたい! でもね、あたしじゃ励ませなかった……」

「ゼラ……あら?」

 母親は戸のそばにいた彼に気づき、娘そっくりの顔で穏やかに笑うと、向かって頭を下げた。

「兵士様……貴方様が私の娘を助けてくださったのですね?なんとお礼を申し上げたら良いか……」

「いや……」

 彼は気まずくなり、何も言えなくなった。
 もちろん顔には出さないが、娘がこうなったのも自分のせい。

 娘の母親は穏やかに続ける。

「兵士様、客間も無いので申し訳ないのですが、宴の準備が終わるまで、ゆっくり寛いでいてくださいませ。子供達は下がらせますので……」

 もしかしたら、この母親は怖かったのかもしれない。

 娘を差出せといった王子。その城の兵士が今ここにいる。
 娘は王子に何をされたかを、まだ言っていない。

 内心、子供らに何かされてしまうかもしれないと心配したに違いなかった。


 彼は一人になった部屋で周りにわからぬよう見えない霧で自身を包み、勧められた寝床に横になった。