「低魔族の者を連れて来るのだ!! 」

 いま王子はなんと言った?
 城の者たちは耳を疑った。

 この城には魔力の高い“高魔族”の者しかいない。王子はそれをなぜわざわざ“低魔族の”と命じたのか。
 王子の言葉を聞いた者たちが口々に尋ねる。

「王子様…⋯!? 」

「なぜ低魔族なんかをここへ!? 」

「お気を確かに王子……」

 すると王子の怒りで城の王の間に巨大な雷が鳴り響き、同時に王子の怒りの声。

「黙れっ!! 」

 恐れおののく城の下々の者たちはすぐさま口をつぐみ、城中が静まり返る。

「あの忌々しい、不出来な弟の代わりに見下してやるのだ!! 怒りが収まらぬ……!! 」

 明るく温和な第二王子と比べ、兄であるラインデンドは冷たい印象を受けるのが常だった。
 彼が怒れば皆震え、誰も何も言えなくなるほど。

 彼が内心心配していたであろう弟王子が二度と戻らないともなれば、彼の怒りを抑え込む手段は無いに等しい。

「どうか、ラインデンド様……」

 城の者たちの願いも虚しく、怒りの王子に『生贄』を捧げることになってしまった。
 ここまでの王子の怒りは、かつて一度も無かったほどだったのだが…