「それで兵士様、他の方々はいらっしゃらなかいのですか? 森には魔の胞子が舞っていたといいます。まさか……」

 そんな心配気な族長に、彼は仕方無く説明をする。

「……他の者は帰した。あの森に耐えられるのは私の魔力だけだろう」

「すごい……兵士様、強いですね〜! まるであの王子様みたい!! 」

 娘の言葉に彼は内心焦ったが、目を輝かせ馬鹿正直に感心している呑気な娘に自分が分かるはずもないと思い直した。

 他の者たちも彼が王子だとは気付いていないらしい。

「ギダ様、兵士様に栄養をつけてから帰ってもらお? きっと弟王子様のことを探してたんだよ!! 」

 娘が彼を見ながら族長にそう提案。
 早く帰りたいと願っていた彼は当然焦る。

「な……!
「それは良いな! お前のことを助けて頂いたのだし、はるばるここまで来て頂いたのだから! せめて感謝の宴を開かなくては」

「っ、私は要務がある!! これで……」

 低魔族の者たちとなどいられるものか、その言葉を彼は飲み込んだ。

 王となる者、どんなに下に見ていても口に出してはならない。ましてその差別によって、先ほど強く後悔をしたばかりなのだから。